APH

□不確かな未来を前に
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「日本、お勉強進んでるあるか? 分からないところがあったら聞くよろし」


襖を開けた先の小さな姿が振り返った。
真っ白な肌に無表情の、一見近寄り難いような子供。
机に向かっていた日本は静かに筆を起き、こちらへ寄ってきた。


「こんにちは、中国さん。 今は中国さんに教わった字を練習していました」
「そうあるか! 偉いある! 日本は真面目でいい子あるな!」


どっかりと畳に座り、その目の前に正座した日本は嬉しそうに微笑んだ。
机を見れば、白い紙に黒い墨が文字を記している。
手本とされているのが嬉しくて、手土産に持っていた菓子を差し出すと、日本はニコリと笑って食べはじめた。
小さな口でそれをかじる日本は子供らしくて、可愛い。
味を問えば、口に合ったらしく「美味しいです」と感想をくれた。
それがまた嬉しくて、日本の小さな頭を撫でる。
少し驚いたような顔をした日本は首を傾げ、しかし何も言わなかった。


「日本はいい子ある。 我は日本がとっても大事あるよ」
「……。 ありがとうございます、中国さん」


唐突な発言に茶々も入れず、日本は堅苦しい礼を述べた。
一つの菓子を食べ終わった小さな手が、もう一つを掴んで口に運ぶ。
小動物の様に愛らしく、これ以上無いくらいに出来の良い義弟。
幼いその姿を穏やかに見つめながら、まだ言うことの出来ない彼の未来――国としての存在が脳裏を過ぎった。
自分達は国。
国である限り個人の事情や意思は優先されない。
消え逝く自分に手を差し延べる人など居ないから、強くあるしかない。
だから時には非情にならなければいけないこともある。
自分と同じように孤独の道を歩むことになるだろう彼の未来を思い、義兄として出来る限り共に未来を進もうと思った。


「日本、食べたら散歩行くあるよ」
「え……。 でも、お勉強は……」
「そんなの後にするある。 後で我と一緒にやるあるよ!」
「……はい、中国さん」


読み取りにくい日本の表情の中に、子供らしい好奇心を感じた。
真面目な日本は勉強をサボったことなど無いのだろう。

永遠を共にすることは出来ないのだから、思い出だけは作っておきたい。
少しでも多くの記憶と、笑顔を共有したいから。
上品に菓子を食べる日本の頭をもう一度撫で、その柔らかい髪の感触を自分の手に覚えさせる。
平穏な日々が出来るだけ長く続きますように――
そう願いながら静かに微笑んだ。


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