APH

□過去の選択
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秘密を共有する優越感と、人に暴露したくなるムズ痒さ。
それが付き纏う中、「最近君達随分と仲が良いね」なんて言われたから変に口元が歪んでしまった。
きっと今自分は不自然な笑みを浮かべているだろう。


「……ふふっ。 まあね。 だって日本、可愛くて優しいから大好きだもん」


これは自慢と牽制。
日本は俺の恋人なのに、それを知らない哀れなアメリカへの侮蔑。
露骨に嫌な顔をしたアメリカは、鼻をならして口をひん曲げた。


「……なんか君に言われるとむかつくよ。 何でだろうね」
「んー? 羨ましいんでしょ?」
「ハッ、君いい度胸してるよ。 日本の前では猫被って、俺にはその態度か」
「猫を被るのは自分を良く見せたいからだよ? お前には必要ないじゃん」


ライバルだなんて言うつもりは無い。
アメリカはライバル未満の邪魔な石ころだ。
不機嫌そうな顔が廊下に響くほどの舌打ちをし、その眼鏡に窓から差し込む光が反射する。
つくづく悪役が似合う男だ、とイタリアは思った。


「俺は日本がだーい好きだもん。 あれ? まさかお前も好きだなんて言わないよね。 ねえ、アメリカ」
「…………」
「言えるわけないよね〜」


日本に対するアメリカの弱点をつつけば、その極端に薄い唇はひき結ばれる。
それが愉快で、イタリアは更に続けた。


「日本は絶対にあの時の事、忘れてないもんねぇ。 俺と仲良しなのがいい証拠でしょ? ……あははっ」


堪えきれなくなった笑い声は狂ったように廊下に響き渡った。
侮辱する高い声に、アメリカは唇を噛み、それを見てイタリアはまた笑う。

シン、と唐突にやってきた静寂の後、気味が悪いくらいの笑みを浮かべてイタリアは言い放った。


「お前が日本に振り向かれることなんて、これから先も永遠に無いよ。 苦労して檻に閉じ込めたのに横取りされた気分はどうかなぁ? アメリカ!」


イタリアの言葉に空気が汚染されていく。

空間に漂う重い雰囲気は、普段の彼らからは想像できない。
イタリアの笑みも、アメリカの噛み締めた唇も、第三者が居たならば信じられないような光景に違いなかった。

アメリカの、屈辱に歪む顔を見るのが楽しくて仕方がない。
日本を苦しめた、否、未だ苦しめ続けるアメリカのこんな顔が面白くてたまらない。
日本に対する罪悪感と、俺に対するコンプレックスを植え付けて狂わせてやりたい。
取り付かれたようにそのことしか考えられなくなって、俺を羨み厭めばいい。
そうやって日本にしたことを後悔しながら生き続ければいい。

見た目にそぐわない静かな笑い声をあげ、イタリアは鋭い瞳を睨みつけた。


「……お前にはもう二度とチャンスは無いよ。 日本は俺が大事にするから、安心して戦争でも何でもしてれば?」


踵を帰した背中に強い視線を感じたが、構わずにイタリアは歩き出した。
そうやって睨みつけて、俺の死を願うほど憎めばいい。

憎悪、屈辱、後悔。
これらをアメリカの中に撒き散らして行く。
それこそが奴を苦しめる最短で最良の手段だと、イタリアは小さく微笑した。

――苦しめばいい。
日本が傷ついたよりも多く、深く傷ついて、悲しんで、後悔の念に取り付かれて己を憎めばいい。



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