APH

□日本の熱とアメリカの執着
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定期的に行われる生徒委員会が終わり、少し離れた席に座る日本が立ち上がった。
騒がしい周囲の雑音など聞こえないかのように、無表情の彼は重圧感のある扉に手をかける。


「あ、ちょっと!  日本、待つんだぞ! 君に話したいことが……」


アメリカの声が大きく響き数人がこちらを見るが、日本は見向きもせずに会議室から出て行った。
話があると、会議の前に言っておいたはずなのに。
小さな苛立ちに舌打ちして、騒ぐ奴らにぶつかりながらアメリカは会議室を飛び出した。
廊下には一つだけの靴音が響き、それを出している本人は安定しない足取りで階段へ向かって歩いていた。


「ちょっと日本! 待ってよ! 待ってってば!! おい、にほんー!?」


大声で喚く声に、青白い顔をした日本はようやく振り向いて、首を傾げた後、ハッとしたように目を見張った。


「アメリカさん……。 あ……すみません、お話があるんでしたよね」


申し訳ありません、と日本は頭を下げた。


「いや、別にいいけど……なんかおかしいよ、君。 どうかしたのかい? 顔、真っ青じゃないか」
「そうですか? 私は平気ですけど」


とても平気そうには見えない。
ただでさえ元から体調が悪そうな顔をしているのに、今は病人のような顔つきになっている。

アメリカは日本の額に手を伸ばし、触れた温度に驚いた。


「熱っ……!」
「え……? そうですか……?」
「君、絶対に熱あるよ! 風邪でも引いたんだろう!? 保健室に連れていくよ!」
「い、いや結構です。 平気ですし……それに、一人でも行けますから」
「……また倒れたらどうする気だい?」


また、とは数ヶ月ほど前に日本が熱が倒れたときのことだ。
先生に押し付けられた生徒会の仕事を断りきれず、無理をして倒れたことがある。
頼ってくれないのなら、無理をさせないようにするしかないので、そのことがあってからアメリカは日本を注意深く見守っていた。

これだけは譲れない、と威圧感をこめて言うと困惑した顔の日本は諦めたように息を吐き、嫌そうに頷いた。


「分かりました……。 では、すみませんが、付き添いをお願いします」


そう言って再び歩き出した日本の細い腕を、アメリカの大きな手が掴む。
棒のように細い二の腕に、アメリカは小動物を踏み殺してしまいそうな不安に近いものを感じた。


「……なんでしょうか。  一応言っておきますが、私は自分で歩けますからね」
「君は痩せすぎだね。 こんなときなんだから、遠慮はしないでくれ!」
「いえ、ですから私は遠慮しているわけではなく……」
「大丈夫さ! ヒーローはこんな時のために日頃から鍛錬を怠らないんだよ!」
「ですから、あの、聞いてくださいってば……!」


声を張り上げた日本に気がつかないフリをして、アメリカはその細っこい体を抱えた。
持ち上げると、女性より軽いぐらいで両腕の力が余る。
この体のどこに食べ物が流れていくのか不思議だった。

怯えたように絡まってきた日本の腕に気分が良くなる。
にやりと口の端を上げると、そのまま猛スピードで保健室へと駆け出した。


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