桜のしらべ
□3 かごからはばたく鳥
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屯所に来て一週間経った。
でも私は未だにこの部屋から出られないでいた。
新選組の幹部の人たちが恐ろしくて、いつか斬られてしまうんじゃないかって、ずっと引きこもっていた。
部屋というかごの中に。
それに加え、1日に数回運ばれてくる食事にもあまり手をつけなかったし、男装もしなかった。
あまりこの時代に慣れてしまいたくなかった。
巻いていた髪はもう真っ直ぐになっていて、メイクもとれてしまい、身につけている物以外何も残っていない今、ワンピースとハイヒールだけが私が平成の女であるという唯一の証拠だった。
これまで無くしてしまっては、もう縋る物は何も無い。
だからこれだけは絶対に譲れなかった。
早く元の時代へ帰りたい。
頭の中はそればかりで、いつも元の時代にいたころの思い出を振り返っていた。
家族に友達、高校を卒業したときの涙や大学へ入学したときの緊張感や期待。
バイトしていたスウィーツ店、毎週見ていたテレビドラマ、友達としていたブログ。
それから、音楽…
音楽…
今まで私を一番支えてくれたものだった。
辛いことも、悲しいことも、音楽で乗り越えてきた。
ならば今も乗り越えられるだろうか?
小さな期待を胸に、メロディーを口ずさむ。
「自分を信じて」
そんな歌詞の歌だった。