桜のしらべ

□3 かごからはばたく鳥
1ページ/6ページ



屯所に来て一週間経った。


でも私は未だにこの部屋から出られないでいた。


新選組の幹部の人たちが恐ろしくて、いつか斬られてしまうんじゃないかって、ずっと引きこもっていた。



部屋というかごの中に。



それに加え、1日に数回運ばれてくる食事にもあまり手をつけなかったし、男装もしなかった。





あまりこの時代に慣れてしまいたくなかった。


巻いていた髪はもう真っ直ぐになっていて、メイクもとれてしまい、身につけている物以外何も残っていない今、ワンピースとハイヒールだけが私が平成の女であるという唯一の証拠だった。


これまで無くしてしまっては、もう縋る物は何も無い。


だからこれだけは絶対に譲れなかった。





早く元の時代へ帰りたい。


頭の中はそればかりで、いつも元の時代にいたころの思い出を振り返っていた。



家族に友達、高校を卒業したときの涙や大学へ入学したときの緊張感や期待。

バイトしていたスウィーツ店、毎週見ていたテレビドラマ、友達としていたブログ。


それから、音楽…







音楽…


今まで私を一番支えてくれたものだった。


辛いことも、悲しいことも、音楽で乗り越えてきた。



ならば今も乗り越えられるだろうか?





小さな期待を胸に、メロディーを口ずさむ。



「自分を信じて」


そんな歌詞の歌だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ