桜のしらべ
□6 三日月の夜
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side*詩織
夜になった。
透き通るような風の中、空には月が輝いている。
今日の月は三日月だ。
この時代の月は好きだ。
元の時代みたいに街の光にウモレてなくて、1人で凛と輝く。
私はこの時代に来てよく月を眺めるようになった。
夜風に吹かれながら月明かりに照らされるのはとても心地よかった。
今日も1人、縁側で月を眺める。
何をする訳でもなく、ただ見ているだけ。
自分の心を落ち着かせるのにちょうどいい。
これが私にとって貴重な時間だった。
でも今日は月を見ていると虚しくなった。
それはきっと、私の帰路が絶たれてしまったせいで…
山南さんは
「大丈夫ですよ。必ず見つかりますから」
と言ってくれたけど、
もう無理だと思う。
最後の希望であった桜は私に何も語ってはくれなかったのだから…
こんなことを考えていると、また涙が零れ落ちる。
昼間にも桜の下で泣いたのに…
沖田さんが私に泣く時間をあまりくれなかったから…?
人のせいにしてしまうけど、本当は私が弱いせい。
沖田さんの態度に反抗して一瞬
「帰り道が見つからなくてよかった」
なんて思ったりもしたけど、
やっぱり、元の時代へ戻りたい。
桜は何も教えてくれなかった。
この月は何かを語ってくれるだろうか?
空には…月には…
時代なんて関係ないよね?
月に願いを込めて、歌を奏でる。