*短編小説*

□平凡な恋慕。
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四時間目がようやく終わり、C太と一緒に中庭に出た。

僕はお母さんが作っていてくれたお弁当を胸の前でギュッと抱きしめ、前を歩くC太についていく。

そして、日当たりがいいベンチに隣同士で座る。

「いー天気だね、A弥」

「うん、そーだね」



隣にある体温に少しドキッとする。
弁当を包んでいる風呂敷をたどたどしくも外そうと格闘していると、隣からスッと手が伸びてきて簡単に結び目を外した。
そちらに目を向けると、おかしそうに笑っているC太。
C太の後ろに見える木の緑、更にその先の真っ青な空色、C太の髪を照らす光ーーーー……


あまりにも眩しくて、思わず目を細めた。




C太と、目が合う。



「C太くん!」

どこからか聞こえる高い声。瞬間C太の視線が僕から外れる。あ…と思う間もなく、重ねて高い声が聞こえる。



「C太くん!…あの、ちょっといい?」



近づいて来たのは、どこかで見たことのある女子生徒だった。
噂好きの僕は、当然生徒の間で流れる噂に敏感だ。特に、流行りの噂には。

そうだ、思い出した。
この子、学校でもB子の次にかわいいって噂の……名前は、分かんないけど。

緩く巻かれた茶髪に、ぱっちりとした瞳。加えてB子に負けず劣らずのスタイルの良さ。

彼女は、僕らのー…正確にはC太の方へ駆け寄ると、頬を赤く染めて、話があるの、と呟いた。



さっきまで眩しかった世界が、一瞬にして黒く霞んでいく。

C太を見ると、困ったように僕と彼女を交互に見ていた。


ーーー…C太。


「あ…でも…A弥に、聞かないと…」


C太は彼女に困ったように笑いかけた。

彼女は、その時初めて僕のことに気づいたようで、僕と目があった途端、先ほどまでのしおらしい態度はどこえやら、キッと目を細めて僕を品定めするかのようにじとりと見てきた。


「…私、C太くんに大事なお話があるの。…C太くんをちょっと借りても良いよね?」


「…え?」


借りる、だって?


C太は、そんな軽々しいものじゃないのに


C太は、もっともっと、大切なものなのに


C太は


C太はーー…


ふと、頭をよぎった。


いつも心のうちに潜めていた、僕の気持ちが。


ーーー…C太。


C太は、やっぱり女の子の方が好きなの?


C太は、C太には、僕なんて、僕なんかより、この子の方がーー…


僕は、邪魔?


本当は、嫌い?


「……いい、よ」


「ーーーー…A弥?」



僕は先ほど広げたばかりのお弁当箱を乱暴に風呂敷で包むと、C太の顔を見ないようにして、その場を後にした。
C太が、僕の名前を呼ぶけど、僕はそれを無視して歩き出した。


そうしないと、C太の顔を見てしまったら、僕はきっとーーー…





「行かないで」





そんな事を、言ってしまうーーーー……







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