*短編小説*
□黒板に淡々と合図を。
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「ここ、ここ。テストに出すから覚えとけよー」
黒板をコツコツとチョークで叩きながら、一つの公式を示す先生。
男、独身、彼女は、いない。
生徒たちのえー、とかはー?という言葉を耳にいれながら私は、
"落書きだらけ"の黒板を見つめた。
[お腹すいたー!マック行きたい、マック!]
[公式イミフwww]
[この先生、説明へたくそ]
[あーケータイいじりたい]
黒板に、ところ狭しと並べられた文字、文字、文字の数。
ご丁寧に吹き出しで書いてある、漫画の台詞のようなそれが何なのか。
まるでラインやツイッターのような文字の羅列に、ふとこれは、このクラスの人たちの心の声なのではないかと思った。
[佐々木さん可愛いなー]
[帰りてー]
[髪型あってねぇよwww田辺www]
[しゃべり方うぜーなコイツ]
1秒と置かずに塗り替えられていく声に、最初は当たり前だが混乱した。
何で誰にも見えないのに、私にだけ見えるのか。
どうして黒板消しで消えないのか。
そもそも、
『……何で黒板?』
思わず口にした疑問は、小さすぎて誰にも届くことなく消えていった。まあ、そうでなくとも私の声は、どれにも届くことはないのだろうけれど。
チャイムがなる。
席をたつ。
ありがとうございましたー。
[やっと終わった〜]
[次ってなんだっけ?]
[メロンパン]
黒板は、やっぱり声だらけ。
その中に、ひとつだけ目立つ黄色いチョーク。
それが今では、私の声。
黄色いチョークで、淡々と。
【本日私は、欠席です】
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