*短編小説*

□黒板に淡々と合図を。
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私は人前ではそんなにしゃべらない。


……"そんなに"という言葉なしで説明するのであれば、


"基本学校では、一言も話さない"



誰かに事務報告と言う名の時間割の変更や、教科書を貸してほしいと頼まれたりするときに、仕方なく、といった感じで話しかけられるくらい。

別に、寂しくはない。


[赤木さんって何考えてんのかわかんない]

[なんか睨んでくる〜]

[怖いwww]

[可愛くねぇー]


そんな声の羅列を見た後、黄色いチョークは大体嘆いている。


【緊張した】

とか、

【別に怒ってるわけじゃない】

とか、






【話しかけられて、嬉しい\(^_^)/】




とか。




「赤木さん」


私も自分からは話しかけないし、……そもそも、話しかける、や話しかけられるといった行為が苦手なのかもしれない。


「赤木さん?」


もう、何か、めんどくさい。
なんだって私にはこんなものが見えるんだ。
あーヤダヤダ。
黒板は見にくいし、知りたくもないことを知らなきゃいけないし、なるべく直視したくない自分の感情を、直視しなくてはいけないし。


「赤木さーん、大丈夫?おーい」


大体知らねーよ、やれ○○ちゃん可愛いーだの△△くん大好きーっとか。
知らねーよ、そんなに好きだったら早く告白でも何でもすればいい。相手は君のことあり得ないって言ってたけど……いや、知らねーよ、ほんと。
お好きにどーぞ。
ま、私にはそんなマネできないけど……いや、知らねーよ。

「赤木さん!!」

『…………えっ?』



いつの間にか。


いつの間にか、目の前には男子生徒が立っていた。何だ。何だこれ。誰だこれ。違うこれじゃないこの人。いや、知っている。




私はこの人を知っている。




いつも黒板の声に、悪口を、陰口を言われている。


「大丈夫?」







同じクラスの黒沢 杏(くろさわ あんず)。







彼の声は、一度も見たことがない。









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