お題

□4.お揃いのパジャマ
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風呂あがり。

 パジャマの袖に腕を通して羽織ると、ふわっと嗅ぎなれたにおいが広がる。

「あれ?このにおい…」

 自分のにおいとは違う、男っぽいにおい。

 確かめるためにパジャマのタグを見てみたら、そのパジャマは大石のだった。

 首についてるタグがきっちりとついてるのが大石の。

 右側の方だけ半分糸がほつれてるのが俺の。

 っていう風に、見分けをつけてあったのに。

 俺はうっかり大石に俺のを渡してしまったようだ。

 だから残った方が必然的に俺のだと思うよな。

 なぜそんな見分けをつけたかっていうと、色も柄もサイズも同じパジャマを二人で着てるから。

 しかもそんなパジャマが後2〜3着あったりすんだよね。


 お揃いのパジャマ。

 お揃いのマグカップ。

 お揃いの食器。


 あげていけばキリがないくらい、お揃いにしてみた。

 もちろん揃ってないものもたくさんあるけど。

 でも、俺たちしかいない場所では、堂々とお揃いのものを一緒に使いたいって思ってたんだ。

 それは、俺たちがゴールデンペアって呼ばれてた頃からの、俺の願望だったりする。

 どこの乙女だよ!っていわれそうだけど、まぁ新婚なんだし。

 いいよね?


 とりあえずそのまま着直して、バスルームを出た。

「大石〜、さっき渡したパジャマ俺のだった〜」

 リビングに入るなり、新聞を読んでる大石の背中に話しかけると、すぐに振り向いてくれる。

「やっぱりそうか。なんとなく英二のにおいがすると思ったんだ」

 読みかけの新聞をたたんで、ニッコリと笑ってくる。

「大石もにおいで分かったの?」

「まぁ、自分のと違うからね。取り替える?」

 大石はパジャマの胸のところをつまんで聞いてきたけど、俺は首を横に振った。

「うんにゃ。大石がいいなら、このまんまがいい」

「俺はかまわないよ」

「んじゃ、このまんまで」

 バスタオルで髪をガシガシ拭きながら、冷蔵庫に向かう。

「大石、なに飲んでんの?」

「ビールだよ」

「やっぱ風呂上りにはビールだよな〜」

 冷蔵庫を開けながら、俺は買い置きしていたコーラの缶を取り出した。

 プシュっとプルトップを上げ、グビっと一気に半分ほど飲んで大石の隣に腰を下ろす。

「あれ?コーラ?」

「うん」

「英二の分もビールあっただろう?」

「うん。でもコーラでいいの」

 手にしてたコーラの缶をテーブルに置き、俺は大石の肩に頬をつける。

「こうやって二人でゆっくりすんの、5日ぶりじゃん?だから、酔って眠っちゃわないようにビールはやめておいた」

 髪がまだ濡れてるから、大石まで濡れなうように気をつけながらくっつく。

 大石の確かな熱を感じ、ほうっと長い息をついた。


 そうなのだ。

 大石の勤務が当直だったり、俺のバイトが深夜時間だったりして、このところろくに顔をあわせてなかった。

 たいていどっちかが寝てるか、帰ってきたら出かけるところだったとか、そんなんばっかりで。

 正直、かなり寂しかったんだよね。



 大石の着てるパジャマから、大石のにおいと大石のじゃないにおいが混ざって俺の鼻先に届く。

 俺のパジャマからも同じようなにおいがして、少し落ち着かない気分になっていた。

 けど、この大石のにおいがうれしい。

 頬に感じる大石の体温がうれしい。

 ここにいるっていうことだけで、幸せに思えてならない。

 この時間を短くしたくなくて、あえてビールはやめておいたのだ。

 酒は好きだけど、俺はあんまり強くない。

 いつも一緒に飲むと先に眠っちゃうから、今日は飲みたくなかったんだよね。

「なんだ残念」

 そのひとことに顔を上げると、目元をほんのり赤くした大石がじっと俺を見ている。

「にゃに?」

 見つめてくる瞳がまっすぐすぎて、ドキッとした。

「酔った英二を久しぶりに見られるかと思ってたのに」

 大石は俺の肩に腕を回して、ぎゅっと抱き寄せてくれる。

「そんなに見たかった?」

ドキドキしてる胸がバレないように、からかう感じで笑ってやった。
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