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□したがりなぼくら
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よそ見しないで。
俺だけ見てて。
欲しい時は、すぐにキスして。
なんて。
こんなこといったら、困っちゃうよな。
でも、して欲しい。
だって、こんなに人を好きになったこと初めてなんだもん。
だからいつでも確かめたくてしかたないんだ。
大石も同じくらい俺のこと好きなのかな、って。
自分でもバカだって思うことも、気になってしかたない。
この唇に触れた人間って、何人いんのかな、とか。
指とかじゃなく、同じ唇で。
親はノーカウント。
まったくの他人。
俺が、一番最初の相手だよね?
大石の唇のやわらかさは、俺だけが知ってるんだよね?
初めてのキスは、大石から。
俺はもちろん初めてだったし、本当にキスしていいのか分かんなくてモジモジしてたら、大石から俺のに触れてくれた。
チュッ、って一瞬だけだったけど、すっげー嬉しかった。
それから徐々に回数が増えて、時間が長くなって、深くなっていった。
大石とのキスは気持ちいい。
だから、二人きりになるといつもねだってしまう。
今もすごくキスして欲しくなって、外だというのに大石の小指に自分の人差し指を引っ掛けて気を引いて。
そんでもって思いっきり誘う上目遣いで大石を見た。
それだけで俺の要求を察してくれて、近くの公園の植え込みの中に二人っきりになった。
夕暮れも終わる時間で、辺りも薄暗くなってきてて、あちこちの茂みに隠れてるカップルがイチャつき始めている。
背の高い木々の中なら、男同士だって十分イチャつける絶好の場所なのだ。
せっかく向かい合ってるのに、俺は俯いてて大石の顔を見ていない。
「…ごめん」
急な自分のワガママに付き合わせてしまったことを、一応謝っておく。
「なにが?」
「なにがって…外なのに誘った、から。怒ってる?」
恐る恐る目だけ上げて、大石の顔を窺う。
「怒ってないよ」
確かに大石の顔は笑ってる。
「ホントに?」
それでも念のため確認。
「ホント」
「よかった」
ようやく顔を上げて、ホッと息をついた。
「それに、英二だけじゃないし」
「へ?」
「俺も、その、どうやって誘おうか、考えてたから」
照れたように笑う大石の顔。
自分の顔がやけに熱いと感じて、恥ずかしいくらい真っ赤になってることに気づいた。
「顔、赤い…」
そう言って、大石が俺の頬に触れる。
熱く火照った頬に触れる手が少しひんやりしてるって感じたのは、俺が体温を上げてるせい。
大石の瞳が、じっと俺を見つめる。
その真剣な眼差しが嬉しくて、つい目を潤ませてしまう。
「おーいし…」
ちょっと甘えた口調で名前を呼んだ。
大石はこういう風に呼ぶと、とたんにその瞳の色が変わる。
なんか、スイッチ入ったんだ、って分かるんだ。
「…英二」
ちょっと掠れた大石の声に、ドキッとした。
そしてゆっくりと唇が近づいてくる。
ふにゅっと触れた唇が熱くて、大石の体温も上がってることを教えてくれた。
腰に大石の手が回って、グッと引き寄せられた。
顔の角度が変わって唇が濡れる。
「ぁ、…んっ」
舌で唇の狭間をノックされて、俺は応えるように薄く開けた。
するりと潜り込んできた舌は熱くて、ぬめる感触に首筋辺りがざわざわと粟立つ。
表面のざらついたところで舌の裏側を舐められて、奥からじわっと唾液が溢れてきた。
それを啜り上げられ、一緒に舌も吸われる形になっちゃって、腰辺りがゾクゾクとむず痒くなってくる。
「…ぅ、ん……んん、んぁっ……」
角度を何度も変えられて、まるで大石に食べられちゃうんじゃないかって思うほど情熱的に唇を求められた。
口の中から背筋を渡って、熱が伝染してくみたいに身体中を駆け巡る。
腰が痺れて、膝がカクンと落ちた。
その拍子に唇が、ちゅって音を立てて離れる。
俺がしがみついたのと、大石が支えてくれたのが同時だったおかげで倒れることは免れた。
だけど身体に力が入らなくて、大石の胸にぐったりともたれる羽目になっちゃった。
「英二、大丈夫か?」
「う〜、ごめん、もちっとこのまんまでい?」
「かまわないよ」
大石はそういって、ぎゅっと抱きしめなおしてくれた。
身長差はそんなにないはずなのに、大石の肩に顔を埋めてると包み込まれてるみたいで安心する。
あー、なんで大石って、こんなにカッコイイんだろう?
こんなにカッコイイ彼氏が俺のなんだよーって、みんなに言いふらしたい。
うんにゃ! ダメダメ!!
大石がカッコイイってことみんなが知っちゃったら、ライバル増えちゃうもんね。
大石の魅力は、俺だけが知ってればいいんだ。
ずっとすがっていたくなるあったかい胸からほんの少しだけ自分を離し、顔を上げる。
「ね、もっかい」
ん、と唇を突き出すと、大石はそれを大きな掌で覆う。
「今日はここまで。もう帰ろう?」
「ん〜〜〜、ん〜ん〜〜〜〜っ」
口を塞がれて声にならないけど、思いっきり抗議する。
まだ一緒にいたいのにぃ〜。
睨んでる俺にため息をついて、大石は掌を外した。
「これ以上はヤバイから」
ぎゅっと強く抱きしめられると、大石の身体はさっきより熱かった。
「場所くらいわきまえないと。って、こんなことこでキスしてたらあんまり説得力ないけど」
そう囁かれた言葉が、熱い吐息と一緒に耳にかかる。
ぞくっと首から背中にかけて、肌が粟立つ。
「どこだっていいのに」
俺も同じだって意味を込めて、ぎゅっと抱き返した。
「ダメだ」
こうなると大石って譲らないんだよな。
「大石のケチ」
「ケチって…しょうがないだろう?」
「なにがしょうがないんだよ」
ゆっくりと身体が離される。
二人の間に冷たい風が通ったと感じたのは、きっとお互いの身体が触れ合ってた場所がひどく熱かったせいかな。
「…今度は、途中でやめてやれる自信がないんだ」
「へ…?」
「ほらっ、帰るぞっ」
怒ったような口調で身体の向きを変えると、大石は俺の手を引いて歩き出す。
そのことに、俺は文句が言えなかった。
だって、大石の耳、まっかっかなんだもん。
逆に手を掴んでる腕に絡みつき、真っ赤に熱くなった耳におねだり。
「今日、お泊りしてっていい?」
腫れたように赤くなった耳の大石は、なにもいわず、ただ握った手に痛いくらいの力をこめてくる。
歩いてる方向からすると、その行き先は大石家に向かってるようだ。
それが了承の意味を示してるのは分かるけど、やっぱりちゃんと教えて欲しかった。
「なぁ、ダメ? いいならさ、ここでチューして♪」
暗くなったとはいえ、ここは一般道。
住宅地に入ってて、車もいなくて、今は人気もない。
でもそんな場所で、大石がそれに応えてくれるはずなんてないのは分かってる。
あえて言ったのは、大石の口からお泊りの了承を取りたいだけだ。
それに、真っ赤な顔の大石っていうのが、なんだか楽しくなってくる。
「ねぇってば。いい? ダメ? どっちだ、…っ」
おもしろがってつついてると、いきなり立ち止まって唇を塞がれた。
やわらかいものが、俺の唇を覆ったとたんに離れてく。
「…これでいいだろう?」
大石は、むすっとしてるけどやっぱり顔は真っ赤で。
俺にもそれが移ったみたいに、カーッと顔が熱くなる。
ホ、ホントにキスしたよ、大石ってば。
真っ赤な顔して照れてるくせに、なんでこんな大胆なことできんの?
ここ外だぞ?
マジ、ありえねーっ!
俺は手を軽く引っ張られて、よたよたとしながら大石についてく。
少ししてから、俺がおもしろがってつついてたことへの仕返しなんだと気づき、今度は俺がむすっとする。
「…ったく、変なとこで大胆になるんだよな、大石って」
「ちょうど誰もいなかったから」
そういいながら携帯電話を取り出して、どこかへかけはじめた。
家に俺のお泊りの了承をとるのかな。
「あ、母さん?」
電話の相手はやっぱりおばさんで、大石は俺が泊まることの許しをもらっている。
その後姿を見て、ちょっとムカつく。
うわ、ヤベ。
おばさんに俺のお泊り交渉してるだけなのに、なんだ?このムカムカするのは。
ぅう…やっぱダメだ。
さっきまで俺だけを見ててくれた大石が、親とはいえ、別の方を向いちゃってるのがムカつくんだ。
なんつー独占欲だよ、まったく。
でも………、――――
つかまれてる手をぎゅっと握り返すと、電話をしながら大石が振り返った。
たったそれだけのことがうれしくて、俺が思わず満面の笑みを零した。
「…うん、分かった。じゃあ、これから英二と帰るから」
おばさんとしゃべりながら、大石が足を止めた。
なんだろう?
おばさんが俺に代われっていってんのかな?
俺も足を止めると、ふわりと大石の唇が俺のに降りてくる。
耳元で、ピッと機会音がして、やわらかく唇が押し付けられた。
さっきと同じようにすぐに離れたけど、俺の思考回路は止まっちゃってうまく頭が働かない。
な、なに?
急にキスなんて…。
さっきは俺がからかったことへの意趣返しだろうけど、今のはなんで?
どうしていいか分かんなくて、ただ大石を見てるだけしかできない。
せっかく冷めたはずの熱も、また上昇したみたいに身体が熱い。
「頼むから、そういう可愛い顔しないでくれよ。歯止めが利かなくなるから」
それが大石のイイワケ。
「な、なんだよっそれ!」
恥ずかしくて声を荒げても、大石はどこ吹く風とでもいうように、また俺の手を引いて歩き出す。
「可愛い顔は元からだっつーの」
引かれるままにちょっと後ろを歩きながら、ぼそっと呟く。
ぐいっと力強く引っ張られ、大石の横まで進められて耳元に息がかかった。
「今すぐ欲しいのを我慢してるんだから、少しくらい摘み食いしてもいいだろう?」
その言葉に、俺はもっと恥ずかしくなって頭が沸騰してみたいになった。
俺だけが欲しいんじゃない。
大石も俺が欲しいって思ってくれてるのはうれしい。
でも、あんまキャラに合わないことすんのやめてよ。
心臓に悪いから。
そう文句をたれながらも、俺の顔はニヤケっぱなしのままだった。
【おしまい】