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□願いごとはひとつだけ
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「あー!大石、見て見て!お祭りやってる!」

 部活の帰り、露店を見つけた英二がそちらを指差す。

 近くにあったのぼりには「七夕祭り」と書かれていた。

「そういえば、七夕だったな」

「いこっ!」

 瞳をキラキラさせながら俺の手を引っ張る英二は、ものすごく楽しそうだ。

「分かった分かった。引っ張るなよ」

 口では咎めながらも、祭りのにぎやかさと英二の笑顔につられて楽しくなってくる。

 全国大会を目指し、練習に明け暮れてる毎日。

 少しくらいの息抜きは平気だろう。

 さっきまで「疲れたー」「腹減ったー」と肩を落としてた英二は、なにを食べようかと瞳を輝かせてる。

 そんな英二を見て、なんだか疲れが緩和された気がした。

 神社の境内に、色とりどりの短冊がかかった笹を見つけた。

 道の両脇に何本も植えられ、願い事を書いて飾れるようになってるらしい。

「英二。短冊に願い事書いていかないか?」

「んなことできんの?やるやる!」

 屋台を物色中だった英二に声をかけると、好奇心旺盛な瞳をさらに輝かせて、一緒に短冊を配ってるテントに入った。

「すいません。短冊ってまだありますか?」

 そこにいた受付の人に聞くと、愛想のいい笑顔で返事をされ、後ろ側のダンボールを覗いてくれた。

「あれ?ちょっと待っててくれるかな。誰か、短冊ってもうこれだけなのか?」

 底に残ってた一枚の短冊を掲げて、他の係りの人にも聞いてくれた。

「予想以上に人来ちゃって、それが最後みたいです〜」

「あ〜、申しわけない。これが最後みたいだから、どっちか一人の願い事だけしか書けないけど、いいかい?」

 係の人に差し出された短冊を受け取って、俺は英二のほうを向いた。

「どうする?一人分しかないって」

「ん〜、いいんじゃん?一枚でも」

「じゃあ、英二が書くか?」

「二人で書こうよ」

「二人で?」

「そ。二人で一枚」

 なにか思いついたのか、英二は笑顔で俺の手から短冊を取った。

 短冊を書くように置かれていた机に移動すると、そこにあったペンでなにか書き出している。

 横から覗き込むと、英二の字で書いてた願い事に頬が緩んだ。

「でーきたっ。これでよくね?」

 短冊には 『5年後も、10年後も、ずーっと二人でテニスができますように』 と書かれている。

「『全国大会bP』じゃないんだな」

「それは実力で獲るから願い事になんかしねぇよ。こっちのほうが願い事っぽいじゃん」

「そうだな」

「大石、名前書いてよ」

 英二の書いた願い事の横に、俺は自分の名前を書いた。

 英二も、俺の名前の横に自分のを書き足す。

「これ飾ろ。ね♪」

「ああ」

 短冊を手に、竹のほうへかけてく英二の後ろを追うように歩いた。



 『5年後も、10年後も、ずーっと二人でテニスができますように』



 そんなにも先の未来まで、俺と一緒にいてくれるってことだろうか。

 そうだったら、どんなにいいだろう。

 英二も俺と同じ思いを抱えてくれてるんだったら、どんなにいいだろう。



「大石」

 笹に短冊を飾りながら、英二が俺の名前を呼んだ。

「なんだ?」

「……俺たち、ずっと一緒だよね?」

「え?」

「短冊の願い事どおり、5年先も、10年先も、その先も、ずっと一緒にいるよね?」

 こっちを振り向かいないまま聞いてくる英二の手が、震えて見えた。


 英二も、同じ思いに不安を抱えてるんだろうか。


 俺は、英二の耳元に唇を寄せて、思いを込めて囁いた。

「英二が望んでくれるなら、この先もずっと一緒にいるよ」

 振り向いた英二の顔は不安そうで、目尻がうっすら濡れている。

「ほんとに…?」

 細く掠れた小さな声に、俺は胸を締め付けられる。

 安心させてやりたくて、俺は力強く頷いた。

「へへ…」

 笑ってるけど、今にもなきそうな英二の顔。

 俺はすぐに抱きしめたかったけど、人目を気にして震える手をぎゅっと握った。



 英二の願い。

 俺の想い。

 その二つはシンクロして、一枚の短冊に書き記される。




 どうか、願いがかないますようにと。




 一年に一度、天の川で再開する恋人たちに届くように……。


【おわり】

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