お題

□ex01 旦那様の誕生日
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「……・3…2…1…送信、っと」

 4月30日、0時きっかり。

 俺は、愛する旦那様へラブメールを送った。

 今日は、俺の愛する旦那様であり、戸籍上の親である秀一郎の誕生日。

 だけど、今日に限って夜勤でそばにいない。

 だから、愛情たっぷりのラブメールを送ってやったのだ。

「秀一郎、いつごろ気づくかな…」

 最近ようやく慣れてきた呼び名を、あえて口にした。


 養子縁組という形の結婚をして、初めのころに「これからは英二も「大石」なんだぞ」といわれてその場で呼んだら、「他の男の名前を

呼んでるみたいで嫌だ」っていわれた。

 自分の名前なのに嫉妬すんなと、その時は大笑いして、その後少しずつ呼ぶようにしてみたら、聞き慣れたのかうれしそうな顔をする

ようになったのも、つい最近。

 もう十年以上も同じ呼び方で過ごしたんだから、聞きなれないっていうのも分かるけどね。

 俺もいい慣れるのに、ちょっと時間かかっちゃったし。


 携帯を見つめながら、きっと休憩とかでも携帯なんてチェックしないだろうな、と彼の取るであろう行動を頭の中で思い描く。

 帰る直前かな、などと予想を立ててると、こんな時間に秀一郎限定の着メロが鳴った。

 慌てて通話ボタンを押すと、俺声より先に秀一郎の優しい声が耳に届いた。

『英二?』

「どしたの?休憩?」

『うん。英二からメール来るかと思って、この時間に入らせてもらったんだ』

 そう、つき合ってから毎年、俺は秀一郎の誕生日になると0時きっかりにハピバメールを送っている。

 結婚したから、今年はメールじゃなく直接いえるかと思ってたのに、秀一郎んとこの勤務はこの日に夜勤を入れてきた。

 だから今年も、ハピバメールになっちゃったんだよね。

「そうなんだ。あ、改めて、誕生日おめでとう〜」

『ありがとう。毎年恒例だな』

「今年もきっちり送らせていただきました」

『すごくうれしいよ。特にこういうときは』

「仕事中なのに?」

『仕事中だから、かな。せっかく結婚してからはじめての誕生日だっていうのに夜勤だなんてついてないって思ってたから』

「ホントだよな」

 提出した勤務希望が、今回は却下されたらしい。

 大方、他の誰かとかぶって自分が辞退しただけだと、俺は思ってる。

 そんなところが秀一郎らしいんだけどさ。

「誕生祝はなに食べたい?」

 献立は決まってたけど、なにか特別に食べたいものがないか聞いてみる。

『そうだな……どこか外食しようか?』

「それでもいいけど、夜勤明けでどっかいくのってきつくない?」

 そもそも医者って大変そうじゃん。

 テレビで見聞きする程度の知識しかないけど、やっぱ俺にはできないなって思うし。

 秀一郎はそういうの気取らせないから、いまいち実感沸かないけど。

『平気だよ』

 言うと思った。

「んー、できれば家で俺が作りたいな。秀一郎の好物フルコースってのは?」

『それが一番うれしいけど、英二が大変じゃないか』

「愛する旦那様の誕生日だもん。腕を振るいますよ」

 最初からそのつもりだったしね。

『大丈夫なのか?』

「もっちろん!期待してて」

『あー、早く帰りたい』

 珍しい。

 秀一郎がそんなこと漏らすなんて。

「早く帰ってきてねん。リボン巻いて待ってるからvv」

『今すぐにでも帰りたいよ、ホント…』

 弱弱しく、ため息混じりにいうから、ちょっといい気になってきた。

「帰ってきたら、一番に俺のこと食べてねvv」

『うん、分かった。じゃあ、下着つけないで、パジャマの上だけ着て寝ててくれよ』

「へ?」

『誕生日だし好きなものから食べることにする。じゃあ、もうすぐ休憩終わるから切るよ』

 おやすみ、といってすぐに通話が切れた。

 俺は携帯を耳に当てたまま、通話の終わった機械音をボーっと聞いていた。


 なんか、すごいこといってなかった?

 下着つけないでパジャマの上だけ着て寝てろ?

 なに、秀一郎って、そういう格好が萌えなの?

 いや、知ってたけど。

 でも、パジャマの上だけ着て寝てろって、おなか冷えたらどうすんだって。

 とか考えながら、結局はその言葉に従っちゃうんだけど。

 つか、仕事中だろっつのっ!!


 とりあえず、帰ってくる予定時間の30分前に目覚ましをかけて、そのときに脱ごうと決めて、今は普通にベッドに入る。

 誕生祝の献立を考えながら目を閉じたけど、どうにも落ち着かない。



 秀一郎が帰ってくるのが待ち遠しい。

 あの腕の中に包まれるのが待ち遠しい。

 あのにおいに、熱に、 汗に、早く塗れたくてたまらない。


 つか、朝から挑まれて、俺ちゃんと使いモンになるのか?

 ま、料理できなかったら、それは秀一郎のせいだし。

 ……少しは手加減してくれっかな。


【END】

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