企業城下都市アーカム・シティ






闇の帳は降り

街からは灯の光が消え

人々は眠りに落ち

姿を現すは白々と空に浮かぶ月




月は見ていた

月は聴いていた

月だけは感じていた




ソレは二人居た




街の遥か上空




其処に二人がいた




人の形をした



しかし、人ではない



人の範疇を逸脱した存在の


互いの存在を否定した



ただの殺し合い




人の範疇を逸脱したソレ等の文字通りの死闘は壮絶を極めた



厚い雲を切り裂き


凍てつく夜気を薙ぎ払い


闇夜の静寂を打ち破り



時刻にして数分程度



だが、その濃密さは1000年の安寧すら霞むほどに濃密で………







「クッ…ハハハッ!
ハハハハハハハハハハッ!!!!
これほどの充溢!
この無限の連鎖の中でついぞなかったッ!!!!」


金髪に金色の眼差しを持った魔人は吼える


金色を纏っているにも関わらず

ソレには一片の光は無い


本来は見惚れるであろう

その美しい容貌は

人の根源にある恐怖を煽るために存在しているといわんばりに歪められている


無論、ソレは歓喜によって


金色の魔人は…



七頭十角の獣

背徳の獣

聖書666の獣


それらの異名を持つ男は


マスターテリオンは嬉々と叫ぶ



「余は……渇いたり!余は……餓えたり!」



額からは薄く血を流し

相応の負傷があるのは見て取れるものの


戦意を言葉に篭めて

マスターテリオンは中空で



自身の怨敵を

自身の宿敵を

自身の無限の退屈を紛らわす存在へと投げかける





その投げかけられた当の本人は


「はぁ……」

気だるそうに溜息をつく


ついた溜息は

夜気によって白く染まり闇夜に溶ける



マスターテリオンに相対する存在は





その男は

いや、一見女性と見紛う容貌のソレは


自身の

紅色の寝癖だらけの癖毛を軽くかきながら面倒そうにしている




ソレは何処からどう見ても

唯の気だるげな人間



だが、唯の人は

夜空に、その中空で制止し
面倒そうに溜息を吐くことなどできはしない


目の前に規格外の化物が存在するのに

こんな平静ではいられはしない



ならば、やはり



この男のような女のようなソレも



金色の魔人と同様に


人の姿をした、なにかなのだろう




絢爛舞踏

永遠の漆黒

ヒーロー


数多の世界で数多の異名を持つソレは



藤堂 風壬は



マスターテリオンと同様に
額から垂れている一筋の血を手で鬱陶しそうに拭う



「テンション上がりすぎだろ…」



異常な緊迫感の満ちた空間に似つかわしくない口調で言い


中空を蹴る



マスターテリオンの上空へ


そして拳を振り上げる



「闇にして漆黒の我は、空間の激鉄を引く…」



静かに呟いた言葉に呼応するように

マスターテリオンは上空の風壬を見上げ

掌を頭上へ向ける



ソレに気を留めず、風壬は拳を振り下ろす

「貫けッ!」



一条の不可視の空間の槍が

眼下のマスターテリオンへと飛翔する



「鮮やかなことだ。
ただの三節で空間を侵すか…」



数多の世界


そのどの世界でも上位

最高難易度を誇る空間そのものを侵す魔術に対し

マスターテリオンはただの掌でソレを



ガンッ!!!!




受け止める



膨大な魔力が篭められた掌で風壬の放った空間貫殺を受け止め


「だが、ソレは先程見た!」


ガシャンッ!


何事もなくそのまま砕く



しかし、マスターテリオンの視線の先


上空に風壬の姿はない




「知ってるよ」


声は背後から

マスターテリオンが、その声に反応するよりも早く



風壬の空間激突を纏った拳が、マスターテリオンの脇腹に突き刺さる


ズッ!!!!!



まるで大型のトラックに跳ねられたかのような音と勢いで吹き飛び




マスターテリオンは空中で回転しながら手を振りかざす



闇夜に光が瞬き



六条の光の槍が発生し



拳を振り切った状態の風壬へと異常な速度で殺到する


「!?」


ソレを風壬は後腰から抜き放った短刀で切り払う









激しいフラッシュを伴いながら

順次切り払うものの…


しかし


ドドッ!!!

残りの5、6の光の槍が風壬の腹部と右肩を穿つ




風壬が痛みに顔を顰めるのと同時に


マスターテリオンは中空で姿勢を制御し制止する

「どうした?まだ余は生きているぞ」


自身のダメージすら愉悦の一つとばかりに笑うマスターテリオン


「見たら解るっつーの。
はぁ………肩と腹と引き換えに…肋骨2本か。
割りに合わないったらありゃしない」


それに対し、面倒そうにぼやく風壬


互いの負傷の程度は互角といったところ


実力も、ほぼ互角



このままいけば勝負の結果は解らない



だが、金色の魔人は一手を打つ


「エセルドレーダ」


何かの名を呼んだ


ソレがなんの名称かを風壬が予測する前にソレは唐突に現れた



「はい、マスター……御前に」



少女が現れた


化物の殺し合いの場に似つかわしくない、黒のゴシック衣装に身を包んだ少女が現れた




だが、風壬は目を見開く


別に自分の守備範囲にストライクしたとかのくだらない理由ではなく



少女の上辺ではなく


本質を肌で感じ


脳が

本能が警鐘を鳴らす



「さぁ、まだだ、まだ先があるのだろう?
踊ろうではないか!
あの忌まわしきフルートが奏でる狂った輪舞曲の調べに乗って!」


マスターテリオンの叫び


風壬は、ほんの一瞬遅れで漆黒の魔眼を発動させる


全てを見透かす魔眼によって


視界内の少女の情報を取得


端的に述べれば

少女は魔道書だった

正確には魔道書の意思、インターフェースを人に当てはめたような存在


失敗だった




魔眼で確認をしたのは失敗だった



この魔眼は全てを見透かす


ソレが風壬に

甚大な被害をもたらす内容だったとしても……



ただ一瞥しただけで


ソレの情報が脳内に叩き込まれてゆく


情報の選定をする暇など無く


文字の一つも欠けずに理解する




その魔道書の銘は

ナコト写本

世界最古の魔道書にして

世界最古の禁書





その冒涜的な中身を

その凶狂たる中身を




本来は

そう、本来はあのインターフェースを

エセルドレーダと呼ばれた少女を介して

一種のクッションにして理解すべきモノを直で理解した





常人なら一目で死に

魔術の玄人でも文字の一行で発狂するような代物




ソレを理解し


風壬の脳は沸騰する

解る

アレは所有者の魔力を格段に上昇させる最高位の礼装にして

数多の禁呪を収める最高位の武器にして

そして、ソレ等の眩い効果が霞むほどの


ソレすら些事に過ぎないと断ずるに足る【存在】を呼び出す




【鍵】なのだと





ズッ………





音も無く


金色の魔人と、その傍らに侍る少女の後方から出現したソレは



意識が朦朧としていた風壬の胴を貫通する


否、していた


風壬がその冒涜的な内容を理解すると同時に



ソレは


巨大な巨人の指の一本が


ソレはどう考えても致命傷


腹部に大穴を開けられ

皮一枚で上半身と下半身が繋がっているという状況





だが、一番驚いたのは金色の魔人だった


マスターテリオンはこの戦いの中で初めて動揺する



先程までの戦闘で風壬の実力は理解できていた

隠しだまが、切り札を幾つか隠していることも理解していた

全力を出せば数段、力が増すことも理解していた



だから放った


自身の魔道書、ナコト写本を鍵に喚び出したソレに


ほんの挨拶代わり


ちょっとした力の紹介程度の気持ちで


機械仕掛けの神

リベル・レギスの指による刺突を放った



避けると確信していた

此方と同様に何らかの切り札を使用すると確信していた



事実


本来の風壬はこの程度の攻撃なら避けていただろう

切り札である魔眼も使用していた



よもや、その切り札が仇になろうとは
使用者である風壬自身、想像だにしていなかった





「あー…まずった」



ゴブッと口の端から血が溢れ

風壬は嫌そうに顔を顰め

自身の胴に大穴が開いたのを一瞥し



驚愕に目を見開くマスターテリオンを見る






「(驚いているなぁ…。
そりゃそうだ、自分もこの間抜けさに驚いている。
にしても………ナコト写本のバックアップに、ソレを鍵にした機械仕掛けの神の召喚か。
こりゃ、俺が万全でも無理くさい…)」




自嘲するように苦笑を零し



風壬の体から浮力が失われる




魔眼は既に解除してある

魔力の全ては肉体の再構築へと廻している

無事、地表に落下するまでに意識を失わずに構築がすすめば…

ギリギリ生きれるかといったところだろう





万有の引力に引かれ




夜空より、化物達の戦場より退席する風壬を

なんともいえぬ表情で見つめる金色の魔人



「マスター、よろしいのですか?」


まだアレは息がある

トドメはささなくてもいいのか?


そういう問いかけであろう、エセルドレーダの言葉に

マスターテリオンは自身の口の端から伝う血を指先で拭い

静かにソレを見つめる


「よい、捨て置け」


「はい、マスターの御心のままに…」




金色の魔人と最古の魔道書は

地へと堕ちる風壬を静かに見送る




「コレで幕引きではなかろう、絢爛舞踏?
まだ、余の渇きは癒えてはいない。
まだ、余の餓えは満ちてはいない」




届く筈のない言葉を放ち


金色の魔人と最古の魔道書は姿を消した





風壬は順調に肉体が再構成されるのを感じながら思う




足りない



今のままじゃ、アイツに奥の手を出されたら簡単に詰む



この世界において

上位の魔術師においての『常識』を手に入れなければいけない



この世界における、魔術師の定義

高位の魔術師にとって必須ともいえる存在


少なくとも、あの少女

エセルドレーダと呼ばれた

ナコト写本と同格の存在を手中に収めなければ

あの金色の魔人と同じ土俵には立てない






だが、見つかるだろうか?



最古にして最初の禁書

ソレと同格の魔道書


「…アレと同格となると、見つけるのも至難、所有者になるのも至難だわなぁ……」




あーめんどうくさい




言葉通り

本当に面倒そうに


もう一人の魔人は大地へと堕ちた








といった出だしです

スタート地点は落下した先
ライカの努める孤児院になります

物語の最初からある意味物語のボスであるマスターテリオンと殺し合ってますが仕様でございます


簡易人物評価

登場人物(少数ですが)の初期の馬鹿へ&馬鹿の評価です



大十字 九朗→馬鹿だろお前!?
風壬→お前には負けるわボケ!!


アル・アジフ→汝はいったい…
風壬→あー!魔眼使ってる時は視界に入らないで発狂するから!少女恐怖症になったらどうするんだよ!?


覇道 瑠璃→アンチクロスじゃない?一介の魔術師でこれほどの力を持ってる人がいるなんて
風壬→この世界でのスポンサーになってくれりゃ万々歳だけどちょいと警戒されてるかね

ライカ→風壬ちゃん!怪我も治ってないのにまた出歩いて!
風壬→子供扱いすんなし!


マスターテリオン→無限連鎖を終わらせる鍵にして余の渇きを潤せる数少ない存在だ
風壬→どうしてこう行く先々の世界で変態に歪んだ好意を向けられるかね…

エセルドレーダ→マスターの敵
風壬→あれだな、本当に俺ってば少女恐怖症になりそう


ドクター・ウェスト→我輩の破壊ロボの最強伝説の礎となるのである!
風壬→もうイヤ!このキチ●イ!


ナイア→君は見ていてあきないね、叶うならもっと沢山の表情を特等席で眺めていたいよ
風壬→ナイアさんとはずっと前からの友達だ…よな?あれ俺この世界に来てそんなに時間たってないはずなんだけど…あれ??


とある魔道書?→………ますたー?
風壬→少女怖い少女怖い幼女怖い少女怖い(泣)

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