TOX2裏連載
□喪失への約束
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オリジンが手を広げる。光が瞬く間に世界中を、そして世界の壁を超えて分史世界に渡っている。
望んでいた瞬間だった。それなのに、あの人はもうどこにもいない。
エルが消えていくのに、心は死んでしまったように無感動だった。
僕が望んだのは、本当に願った世界は……
あの人との未来だけだったのに。
まるで夢から目覚めたようにはっとした。
気付けば雑踏の中に立っていた。
ミラもアルヴィンもエリーゼもローエンもレイアもガイアスもミュゼも、ルドガーもいない。
いつの間にか手に持っていたGHSからは聞き慣れた、それでいてもう聞けないと思っていた声が耳に飛び込んでくる。
「ジュード?どうかしたのか?」
「え……。リベル、なの……?」
「突然無反応になったから、何かあったのではないかと心配したぞ」
「嘘……。本当に、リベルなの?」
「何を言っている?通話中に寝たの……」
「今どこにいるの!?」
自分でもけたたましい声音だと思った。
道行く人々がぎょっとしたようにこちらを振り向いている。
それでもなりふり構っていられなかった。
「イル・ファンにいるが?」
いつも通りの冷静な声に、ジュードの心も次第に落ち着いてくる。
これが夢だとしたら、なんて残酷で幸せなんだろう。
「それで、アスコルド行きの列車に乗るのだったな?
アルクノアがよからぬ事を企んでいると噂が……」
「アスコルド!?」
「さっきからどうした?
レイアに付き合うと話したのはお前だろう」
呆れたような声すら耳に入らない。
まさか、ここって……過去?時間が逆戻りした?
それも、ジュードだけが記憶を持って……
「ねぇ、リベル。何も覚えてない?」
「覚えている、とは?約束でもしたか?」
「……ううん。何でもないんだ。変な事を言ってごめんね」
僕達はオリジンの審判に失敗したのだろうか。
それともオリジンの慈悲だろうか。
どちらでもいい。ジュードは拳を握り締める。
未来をこの手で変えられるなら、今度こそ……
「その話なんだけど、レイアが来れないって急に言い出したんだ。
よかったら一緒に乗らない?」
「俺が乗ったら騒ぎになりそうな気もするがな。
アルクノアの動向は気になっていたし、スケジュールを調節すれば行けない事もないが……」
「じゃあ、トリグラフで待ってる。絶対、来てね」
「あ、ああ……。お前がそこまで言うのは珍しいな。分かった」
もう一度カナンの地に行くには、ルドガーの力が必要だ。
リベルを一人で行動させてはいけない。
まずはそこから変えていかなきゃ。
地面に目を落として考え込んでいると、不意に視界の端に白い上着が目に入った。
「ユリウスさん……」
「この時間軸では初対面だった筈だが。記憶を持っているんだな?」
「ユリウスさんも!」
静かに頷き、次いで空の上を見上げた。そして、左腕に触れる。
「俺が犠牲になろう」
固い決意だった。救ってやれ、とユリウスは微笑む。
誰を、なんて聞くまでもなかった。
「ルドガーの事も頼む」
「……はい」
それだけを告げて、ユリウスはまた雑踏に消えていく。
ひっそりと約束は交わされ、物語は始まりを告げる。
全ては予定調和の線上。
ただ一人の為に、何をも犠牲にする覚悟を持って。
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