TOX2裏連載

□変わり始めた未来
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「今のって、Dr.マティスじゃない?」

「だよねだよね。こんなに間近で見れたの初めて〜!」

「Dr.マティス……」

彼はジュード・マティスというのだろうか。
リベル相手でも物怖じしない人間は珍しかった。
それに、好みもよく分かっていたようだった。
それなりの付き合いがあった、というのは間違いないだろう。

会計を済ませてGHSを開く。
登録した覚えのない名前、ジュード・マティスとのメール履歴も残っている。
それを辿ると奇妙な感覚に陥った。
何故、こんな下らない話まで書いて送っているのだろう。
全く生産性のない、雑談と呼ぶに相応しい文章だ。
そこまで気を許した人間だった、という事だろうか。

「記憶が抜け落ちるのは過去に例がないわけではないが、たった一人の人物が丸ごと消えるなど……」

それに疑問もあった。
ジュードは、俺に記憶がない事を知っても慌てたりしなかった。
最初に泣かれた時は焦ったものだが、それ以降は切り替えたようににこにこと笑っていた。
まるで、知っていたように。

「もう十時になるか……。
俺はどんな気持ちでジュードと約束したのだろう」

初めて呼ぶ名だというのに、呼び慣れたような妙なしっくり感があった。
身体は、覚えているのかもしれない。
そんな事をつらつら考え、ジュードを探すと誰かと話しているのが見えた。
相手は二十歳前後の男だ。
僅かなもやもや感に襲われ、胸を押さえる。

「あ、リベル。こっちだよ。
どれが特別列車か分からないから聞いたんだけど、丁度駅に行くから案内してくれるって」

「そうか……。では頼む」

「ああ」

普通の青年のようだ。
それもお人好しの部類に入るのだろう。
時間が迫っているというのに、ジュードはまだ何かを探すようにきょろきょろしていた。

「どうした?」

「あ、ううん……。おかしいな。
前はこのくらいの時間に出会ったんだけど」

「乗り遅れるぞ」

「……分かった。行こう」

駅につくまでの間、ジュードはずっと街を見回していた。
この青年は駅の食堂に勤めているらしい。
チャージブル大通りには一際大きなビルが建っている。
かの大企業、クランスピア社だ。
秘書として雇ったクランもここのエージェントらしい。
油断は出来ないな、と改めて思っていると名前を呼ばれた。

「クラン社、気になる?」

「警戒しておくに越した事はない。
ビズリーという男、中々の食わせものと聞く」

「そうだね……。あの人もまた、自分の使命の為に……」

「何か言ったか?」

「何でもないよ。早く行こう」

駅には雑多な人々が溢れ返っている。
あれだよ、と指差されるが、俺は別の方向に目を向けていた。
一際大きな体格、といってもジャオ程ではないが、鷹のような目つきをした男が社員を連れて歩いている。
新聞やテレビでもよく目にする姿だ。

「ビズリー・カルシ・バクー。
自然工場アスコルドはクラン社と政府の共同出資だったな」

「もしかしたら、この事故さえも止められたかもしれない。
それでも、この出来事がなければ……始まらない」

「ジュード、さっきから何をぶつぶつと」

「ごめんね。ごめんなさい……」

俺に対して謝った、わけではない気がした。
青年と別れて列車に乗り込む。
ジュードを窓際に座らせ、その隣に座った。


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