TOX2裏連載

□古代の遺跡
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「ディールと言えば、やはり川魚料理が絶品と聞くな。
オーヴェルジュ・トロータ・ダイニングはグルメ雑誌にも取り上げられたらしい」

「随分と詳しいね?」

「ガイアス情報だ。地酒も上手いと言っていたな。確か、カシュールという名前だ。
パレンジのバーボン、ムーンライトも俺はオススメするが」

「オススメって、飲んだ事あるの?」

ジュードが半眼になる。
更に口を開かれる前に違うと言った。
バランに無理やり飲まされたのだ、と。

「いい加減素直になりなよ、とか言いながら口に突っ込まれたんだ。余計な事をべらべら喋らされた気がするが……」

「リベルの弱みまで握ったのかよ、バランは」

「弱み……。あの時は確かに動揺した気がするが……その内容が思い出せない。
ジュード絡みの事だったのかもしれないな」

「……リベルって、その、もしかして……ずっと前から僕の事を……」

その問いには答えられなかった。
真っ赤になった頬に手を当てているジュードをちらりと見て、車窓に視線を向ける。
船に乗ってマクスバードに行き、そこから列車に乗り換えたのだった。
始まりはあの列車テロだった。ルドガーとの付き合いも大分長く感じる。
そして、ジュードと過ごした時間も。

「何を考えてるの?」

「いや、大した事じゃない。
お前達とこうやって過ごした時間を数えていた」

「少しは僕の事、知ってくれた?」

「ふふっ。どうだろうな」

「あー、ごちそうさま」

アルヴィンがぼやいて目を逸らす。
ルドガーは苦笑いをして、エルはエリーゼやレイアとのお喋りに夢中だった。
自分の立場を忘れそうになって、リベルは息を吐いた。

「こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいいのにな」

「……そうだね」

力強く頷いてくれたジュードの存在が何よりもありがたかった。



「待ってたよ、ルドガー」

右手を上げてノヴァが迎える。
噴水広場の前で止まると、こちらから聞かずともノヴァは自身の身に起こっている事を語りだした。
差し押さえの相手が怖いから、そのヘルプをルドガーに頼んだらしい。
エルがきょろきょろしているのに気付いて見下ろす。

「ここ……パパと一緒にきた時ある気する」

エルの家の前には大きな湖があるそうだ。
この近くの湖といえばウプサーラ湖だが、すでに枯れて久しいはずだ。

「エルはリーゼ・マクシアの人間なのだろうか?
エレンピオスに湖とは……」

顎に手を当てて考えていると、ジュードが微妙な顔つきでエルを見ているのが視界に入った。
憐憫のような目をしている。
気にかかるも、口には出せなかった。

「そういえばウプサーラ湖で遺跡が見つかったとか。
黒匣とは全然違う文化だと、ニュースでやっていたな。
見学できるだろうか?」

「それが、よく調べる前に崩れちゃったとかなんとか」

「……そうか。残念だ」

「今、ちょっとラッキーとか思ったでしょ」

ジュードに見抜かれてぎくりとする。
人がいないならば、精霊達の力でどうとでも入れる。
こほんと咳払いをすると同時に、ルドガーのGHSが鳴り響いた。

「今度の分史世界は道標があるかも、か」

そういうのは大得意だと、ヴェルの手伝いにはアルヴィンが手を挙げた。
やりすぎるなよと呟けば、リベル程怖くはしないから大丈夫だと自信満々に返された。
アルヴィンにここは任せ、いつものように分史世界に入る。

「一見して変わったところはなさそうだが……」

「あんたらもウプサーラ湖目当てに来たクチかい?
遺跡もいいけど、魚と酒も試してってくれよな」

「遺跡、見れるのか?」

「ああ。ただし、実際に調査に入れるのはクラン社のエージェントだけだけどな。
貴重な遺跡の保全する為だそうだ」

「ありがとう」

すぐに情報が手に入ってよかった。
しかし、リベルの機嫌が下降した事に気付かれたらしい。
ジュードが苦笑しながら、ずるいよねと同意を示すように言った。

「全くだ。大多数の人々が訪れれば荒れてしまうのも道理だが、かといって独占されるというのもな」

「まあまあ。これから正史世界では崩れた遺跡に入れるわけだし」

「そうだな。この機会に調べ尽くしてやろう」

「うわっ、やる気満々だよ」

「リベル、目が輝いてますね」

『片っ端から分解してく気だー!』

意気揚々とカタマルカ高地を進んでいくと、次第に雲行きが怪しくなってくる。
ついには雨が降り、全身をとめどなく濡らし始めた。
長い前髪をかき上げると、それだけで随分と視界が開ける。

「寒くない?大丈夫?」

「温い雨だから心配はない」

「少し前まで風邪っぴきだったんだから。
油断してると、ね?」

「そうなったらお前が看病してくれるんだろう?」

「……もう、なんでそうやってさらりと言うのさ」

お前の方が常々気障な台詞を吐いている、と喉まで出かかる。
気持ちを疑うわけではないが、ジュードが何かを隠して旅に同行しているという点は否定できなかった。
何故そこまでリベルに執着するのか、の答えもきっとそこにある。

「恐れているのだろうな……」

空を見上げて、ぽつりと呟く。
その理由を知りたい。と同時に、知りたくない。
知ってしまったら、ジュードが今のジュードでなくなってしまうようで。
この関係性を壊してしまうようで。


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