TOX2裏連載

□忘れえぬ想い
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目を開けると、琥珀色が見えた。
それが人間の瞳だと気付くのに、いくらかの時間を要した。
寝惚け眼のリベルの頭を、ジュードは愛おしそうに撫でる。

「おはよう」

「もう少し、寝る」

ジュードを抱き直し、再び目を閉じる。
すると、くすくすと柔らかな笑い声が鼓膜を擽った。
起きてとでも言うように、リベルの身体が揺さぶられる。

「もう皆、多分起きてるよ」

「お前は、起きられるのか?」

寝起きの掠れ声で聞くと、ジュードの声もまた別の意味で少し掠れていた。
その意味を理解したジュードは、恥ずかしそうにしながらもこくんと頷いた。
無理をさせてしまったと反省はしている。

「少し痛いけど、平気」

「そうか」

昨日のテロなど嘘のように、穏やかな朝だった。



「早いな」

リベルが寝ぼすけなだけだと皆が笑う。
カナンの道標探索もとうとう最後になった。
万全の準備で行くべきだろうと話していると、アルヴィンとレイアは急に仕事が入ったらしい。
その直後にヴェルから連絡が入り、道標のある分史世界で特殊な術式が展開されたようだと告げられた。
その影響で時空の狭間が不安定になっており、進入可能なレベルに安定するまでは待ってほしいとの事だった。

「特殊な術式……?」

「ジュードも知らないのか?」

「うん。何か分からないけど、嫌な予感がする」

ジュードの予感は外れていなかった。
ただし、その事に気付くのは終わった後だった。
ガイアスのGHSに連絡が入り、トリグラフへ向かうと言った。

「クラックから相談があるそうだ」

「ターネットの事、か?」

「恐らくな」

ローエンはシャン・ドゥに用事ができたらしく、エリーゼが護衛につくと申し出た。
重鎮であるローエンを狙う人間は多い。
一緒について行くべきか迷ったものの、あの不良少年達の件も気になっていた。

「気をつけてな」

「はい。皆さんもお気をつけて」

恭しく一礼し、ローエンはエリーゼと共に船に乗って行った。
一行は列車に乗り、トリグラフを目指す。
海停にある宿屋に入ると、彼らが待っていた。

「こっちとしては、みんな来てくれて助かるよ」

「相談とは何だ?」

「実は、ターネットがずっと顔を出さなくてさ。
アースト達と一度話したみたいだし、何か知らないかと思って」

思わずガイアスと顔を見合わせる。
その雰囲気で分かったらしく、クラックが教えてくれと乞うた。
ガイアスはありのまま、あの時にあった事を話す。
やはりクラックは激昂して、ガイアスの胸倉を掴み上げた。

「仕方がなかった」

「てめっ」!

ガイアスの冷静な声は、火に油を注ぐようなものだったのだろう。
クラックがガイアスの頬を殴る。
しかし、はっとしたようにクラックが動きを止めた。
そして、項垂れてターネットの事を語り始める。

「ターネットはリーゼ・マクシア嫌いで……。
俺はあいつのそういう考え方、正直嫌いで……、けど!
俺の幼馴染で、大切なダチなんだよ!」

ガイアスに噛み付くような語気になり、宿屋を走り去っていく。
それを見送るガイアスの目は、どこか寂しそうだった。
その時、新たな分史世界が探知されたのでそちらの対処を、と連絡が入る。

「行くぞ、ルドガー。
大事な仕事だろう」

リベルは何も言わなかった。
アルヴィンならいざ知らず、ガイアスは立派な大人だ。
自分なりに答えを探し、消化できるだろう。
だから、ガイアスに向かって微笑んでみせた。

「友達とは、いいものだな」

「そうだな」

「俺も僭越ながら、お前の事を友と思っている」

「僭越など、お前らしくない」

「これでも、お前に憧れていた時期がある。
今もお前の背は遠く感じるが、お前も悩んだり不安を感じたりする事も知っている」

ガイアスはふっと笑った。
何か言いかけたように感じたが、突然の吹雪に五感が一瞬にして麻痺した。

「何故ガイアスと入ると、こう寒い場所に……」

「以前もモン高原だったな」

己の腕を抱き、震える歯の根で恨みがましく呟く。
これにはガイアスも呆れた顔をしていた。
ジュードがあの時のように上着を貸そうとするも、その手を止めてカン・バルク方面へと促す。
今日は特に吹雪いているように感じたが、慣れているガイアスにとっては問題ないようだった。

「あなたの精霊で寒気から守ってもらえばいいんじゃないの?」

「そうしたいのはやまやまだが、なにぶん力のコントロールが不安定な存在だからな。
うっかり俺達まで燃やされる可能性がある」

「まあ」

ルドガーがミュゼを見て微妙な顔をしている。
また本音でも聞こえたのだろう。
後でルドガーにこっそり聞いたところによると、面白そうだから試してみればいいじゃないと言っていたそうだ。
針で刺されるような寒さというと大袈裟かもしれないが、震える手足を叱咤して歩き続ける。


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