夢小説 短編

□三成侵略
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「あそこがニンゲンの里か……」

思っていたものとはずいぶん違う、ニンゲンと均等に分けられた建物で覆い尽くされていた。建物は見た限りあの山の中でたくさん見た茶色の植物でできているのだろう。

「取り敢えず、ニンゲンに紛れて生活を見守るか」

観察、記録さえすれば大体のことはわかる。それを星にもって帰りさえすればいいだけだ。

「早く帰らないとな……」

昨日妻や子供に号泣されたのを思い出す。いやはや、あそこまで泣いてすがられると仕事を放棄しそうになってしまったが、養うため我慢してこんな遠くの星まで来たのだ。早く帰らないともっと悲しませてしまうかと考えてしまう。

そう、こんな仕事さっさと終わらせて帰らせてもらうつもりだ。上司に文句のつけようとない程度にやってからだが。



ずさささささっ

道へ大回りするのも面倒だったため、がけを勢いよく降りていく。さすがあの速度で走れたニンゲンだ。身体能力が高いようでなんなく降りていけた。
気分よく降りれたところで、辺りを見回そうと顔をあげた瞬間だった。





周りの空気が一気に凍りついたのを感じた。私の顔を見るなり、周囲のニンゲン達が顔を青くして後ずさる。

な、なんだ……?

「……?おい……?」

訳がわからず、声をかけた瞬間だった。



「み、……三成様がお帰りになられたぞ!」

三成……?

あれだけ大勢いたニンゲン達が我先にと道端に避け、地に直接膝をつけ頭を下げる。賑わっていた声や生活音が一気に消え失せた。風が吹き抜ける音だけが辺りに響いていた。

道端に避けたニンゲンは息を殺し、まるでそこにいないかのように存在を消していた。









な、なんなんだ?なぜこのニンゲン達は僕を恐れているんだろうか?

いや、僕というよりは、僕が容姿を貸してもらっているこのニンゲンにか。これだけ恐れ敬っているんだ、このニンゲンは相当の地位に立つ者なのだろう。

……どうやら僕は、厄介なニンゲンになってしまったようだ。大体は借りても問題ない程度のやつに化けたりするのだが、家族のことで頭が一杯で大きなミスをおかしてしまったらしい。くそ……。

とにかく、ここは誤魔化して植物達の並ぶあの森に帰ろう。それからもっと地味なやつに化けなければ……。

きびすを返そうとした瞬間だった。















「誠に主は神出鬼没よな。」

その場の空気が一層に固まる。

……?

きょろきょろと辺りを見回していると、さらに声がかかる。

「遠出ついでに耳をおいてきたか。我はここよ、ココ」

後ろからの声に振り替えると、そこには平たい台のようなものに乗った、白くて細いものを全体に巻いたニンゲンがーーーー浮いていた。

ふわふわと浮いているそれに、もしやこの男が乗っているのは宇宙船ではと驚くが、電磁波を感じない。違うものらしい。

ではこのニンゲンはどうやって浮いているんだ?どうなっている?

まじまじと興味深げに自分を見る僕にしびれを切らしたのか、少し苛立ったようにニンゲンが口を開く。

「我を見つめたとて、穴は空かぬぞ、三成」

三成……あぁ、たしかこのニンゲンの名前だったか。……穴が空く、とはどういう意味なのか……?

それよりも、大変なことになってしまった。なんせ、このニンゲンは僕が容姿を貸してもらっているニンゲンと知り合いらしい。化けるに当たってそれはご法度だ。本人ではないとすぐにばれてしまう可能性がある。

「あ、いや……」

はじめての失態だ。どうする?どうすればいい?こんなニンゲンが大勢いるところでもとに戻ることはできないし、宇宙船もカプセル型にして手元にあるとしてもこんな狭いところで出せるわけかない。







逃げ道、無い……。

冷や汗が頬を伝った瞬間だった。

「まぁよい。いずれにしろ、主が無事で何よりよ」

ふわふわと浮いたまま、目の前の不可思議なニンゲンが背を向け、道筋を進んでいく。取り残された私はどうしようかと辺りを見回したものの、「何をしておる、早に帰るぞ三成」と言われ、さらに逃げる機会を逃したようだった。

「あ、あぁ……」

諦めて、素直についていくしかなかった。ニンゲン達が膝まずいている間を通っていくのは些かどころかかなり抵抗はあったが。





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