小説
□初恋
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「なんでもしてあげられるわけじゃないけど、
なんにもできないわけじゃないの」
申し訳なさそうに言った。
だから僕は何も望まず、不満も言わない。
僕が笑うと、ごめんねって言う。
そのたびに、気にしないでって繰り返す。
裕福ではなかったけれど、自由ではなかったけれど、それでも幸せだった。
僕は楽しくもない学校に毎日通う。
あの人が望んだことだから。
あの人は普通を好んだ。
普通に学校を卒業して、就職してくれればそれでいいって。
普通でないことを嫌った。
兄がようやく見つけた就職先で問題を起こして、早々にニート生活を選んだ時は、泣くか溜め息を吐くかそればかりだった。
そんなことがあって、より一層僕は期待されている。
それは、あの人が死んだ今も変わらない。
父親も早くに死んで、僕たち兄弟に残されたお金はほとんどなかった。
大学も専門学校も望めない。
成績は中の中で、難なく二年に進級。
クラスメートはがらりと変わったけれど、もともと友達のいない僕にはあまり関係ない。
新しい席は窓際の後ろから二番目。
僕の後ろは空いていた。
結局、後ろの席は一日うまることはなかった。
バイトの許可書を持っていくついでに、担任に聞いてみた。
その生徒は病弱で一年の頃から欠席ばかりだったそうだ。
僕には関係なさそうだったからその日のうちに忘れた。