short story
□winter
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〈 winter 〉
「ふふ。」
君が笑った。
「どうしたの?」
「んー?なんでもないよ。」
ソファーに体育座りで座って、少し鼻を赤くしながら、マグカップを膝のところで持っている。
「ねー、瞬ちゃん。」
君は俺のことを瞬ちゃんと呼ぶ。
俺の本名は瞬治なんだけど。
「今日さーぁ、オムライスにしよ。」
君はオムライスが好きだ。
今や俺の得意料理のひとつになった。
「…たまには自分で作ってみたら?」
「んー、私不器用だからー。」
いっつもそうやって逃れようとする。
「俺も手伝うからさ。」
「んー、んー…」
うわ。
めっちゃ悩んでる。
眉間にしわを寄せて、マグカップにおでこをつけている。
「…ん、やだ。」
えー。
「そうすか。」
あんなに悩んだ挙句それかい。
…まあいいけど。
「その代わり、見守ってるよ。」
そう言って俺のいるキッチンにパタパタと駆けてきた。
「…なにそれ、手伝わねぇの。」
「うんっ」
可愛い顔してうんって言われても。
…まあいーけど。
「瞬ちゃんはほんと、料理上手だよね。」
「まあ、昔からやってるからね。」
「…瞬ちゃんかっこいい。」
「なんでよ。」
「なんとなく。」
「なにそれ。」
「なんでも。」
君は可愛い。
温かくて、優しい。
"大好き"
なんて、女の人は憧れるのかもしれないけど、
俺は言う勇気はない。
恥ずかしすぎ。
「…そういえば、年賀状どうすんの。」
「あ、そうだよ、忘れてた。」
「来年の干支ってなに?」
「んー、蛇じゃなかった?」
「蛇かぁ、蛇って怖いよね。」
「え、そんな話?」
「なんだよ真面目だなぁ。」
「いやだって、年賀状…」
「分かってるよ!」
でも、
大好きだよ。
「あ、結婚しますとかは、どう?」
「まだいいかな。」
「え、ちょっと待って。あの指輪高かったんだよ。」
「嘘だよ!すぐ信じないの人を。」
「…はい、すいません。」
"あの、これからずっと、傍にいてくれさい。"
"…ん?"
"…ごめん噛んだ。"
これからもずっと、傍にいてください。
end