short story
□冷えた身体
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〈 冷えた身体 〉
秋ももう終わる頃、夜が深まるにつれて気温はどんどんと下がっていく。
「はぁ…」
こぼした少し白いため息は肌寒い空気へ溶け込んだ。
スマホの表示はPM11:49。
明日の出勤は遅い。
今日は帰って風呂に入ってのんびりしたら寝よう。
ゆっくり寝れそうだ。
そんなことを考えながら目線を上に上げると、綺麗な星空が広がっていた。
今日は朝から天気がよく、少し乾燥はしていたが、空も快晴だった。
やはりそんな夜は星も綺麗に見えるもんなんだな。
……あいつは、この時間も頑張ってんだろうな。
黒く染まっている空の中で特によく光る一つの星をじっと見つめていた。
…駄目だ。考えたって会えねーし。
俺は前を向いて上着のポケットに手を突っ込んだ。
あいつは、頭がいい。
が故に、俺よりもエリートで、毎日忙しそうにしている。
よく国内外あちらこちらに出張に行っては、たまに俺の家に来る。
『レモネード作って。』
それが家に入った時に言う彼女の決まり文句で、そんな彼女にレモネードを作るのが俺の唯一出来る彼女への支えだ。
だがここ二ヶ月、一回もレモネードを作っていない。
まあ、そんなことはよくあることだから、心配や不安などはない。
ただ、たまにこういう夜遅くに自宅に帰ると思うことがある。
…あいつはこんな時間でもずっと忙しく働いてんだろうな。
それが「会いたい」に繋がるということは敢えて思わないようにしている。
そうでないと、俺は今にもこの環境を抜け出して彼女を連れ去ってどこか誰にも邪魔をされないところに行ってしまいそうだ。
そんなことを俺も彼女も望まないだろうから、いつも彼女とレモネードを飲める日が来るのをひたすら待ち続ける。