short story

□At 5 in THE AFTERNOON
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〈 At 5 in THE AFTERNOON 〉



放課後。


学校の中がほんのりオレンジ色に染まる午後五時ごろ。

私は彼を待っていた。

高二の三のこの教室の、一番後ろの窓際のこの席からは校庭が見渡せる。

いつもこうやって彼をここで勉強をしながら待っているのだ。




「………あ。」


ふとノートの上に枯葉が落ちてきた。

外を見ると、この学校のしんぼるになっている大きなサクラの木が見事に紅葉していた。

その背景には上の方から水色、桃色、黄色、朱色、と綺麗にグラデーションが出来、膨らんだところが夕日に照らされた雲がところどころに浮かんでいた。

…秋ってなんでいつもこんなにも綺麗なのだろうか。

茎をもって枯葉をくるくる回しながらそんなことを考え、目線を校庭に移した。


「――…ッ!――っ……――…ッ!!」


響いていて何を言っているのかは細かく聞き取れないが、癖のある少し低い声ですぐに彼だと分かった。

私は椅子を移動させて窓の桟に両肘肘をつき、走っている彼を目で追いかけてみた。


サッカー部の彼は、毎日のように放課後ああやって校庭を走り回っている。

私は帰宅部で、いつも彼の部活が終わるのを待っている。
家に帰ってもどうせ勉強するから、学校でやった方がいいと、遠回しに「寂しい」という事を彼に以前言われた。

彼とは中学から一緒で、家が近い事もあって、いつも一緒に登下校している。


「…ほんと、いい顔するなぁ。」


思わず独り言をこぼしてしまうぐらい部活をしている彼はいつも楽しそうで、煌めいている。

実際のところ、彼の地毛のキレイな茶髪が夕日に照らされて違和感もなくキラキラと映えていた。

彼がああして汗をかきながら笑っているのを見ると、こちらまで笑顔にさせられる。

そんな不思議な人で、学年では有名なお調子者だ。


そんな人が私の想い人で、今は恋人だ。

本当に世の中は何が起こるか分からないものだと思う。

彼に三年前告白されてから、ずっとそう思っている。












――――キーンコーン…カーンコーン…



「……っ」


鐘の音に目を覚まして顔を上げると、


「おはよ。」


彼が教卓の所に座って優しく微笑みながらこちらを見て、心地よい柔らかい声で言った。

いつもふざけたことばかり言う彼だから、優しく笑われたり優しく声をかけられると、憎いくらいキレイに見える。


「…ごめん、寝ちゃってた。」


高鳴る心臓を抑えて、笑って誤魔化す。


「いいって別に。疲れてんだろ。」


そう言って立ち上がり、汚れた黒板を消し始めた。

私は机に出していたものをすべてバッグに閉まった。

外はもうオレンジも弱くなり、夕方の終わりを示していた。

それもそのはずで、教室の時計は五時五十分を指していた。


「でもお前が寝てるなんて珍しい光景だったわー。教室入ってくるときにめっちゃでけぇ声で『ただいま帰ったぞー!!』とか言っちまってさぁ。恥ずかしくて死ぬかと思ったわ。」


そう楽しそうに言って、黒板消しをパンパンとした。


「ゲホッ…ゴホッ…!」


それで起きた煙に自分でむせていた。

つくづくのアホさに吹き出して笑ってしまった。


「ふはっ、面白すぎ。」


私はいつも彼のこういう抜けたところを見るのが大好きだ。

見るたびに彼の新しい見れる気がして、嬉しくなる。


「いやだって!平井いつも勉強してっからっ!普通に反応してくれると思うだろ!」


まあ、そのこと以外にもツボったんだけどね私。


必死な目で訴えかけてくる彼が面白すぎて、また笑った。


「私には勉強しかないみたいなこと言わないでっ。寝たくなる時ぐらいあるでしょー。」


特にこんな心地の良い夕焼けの日には、暖かい陽だまりの中で寝たくもなる。


「…おう。そやな。」


彼は黒板消しを置いてチョークを弄っていた。

いつも声を張って喋る彼だから、今の返事がなにか不自然な気がした。

私はゆっくり黒板に近付いていき、彼の顔を覗いてみた。


「なーにを隠してるのかな?」

「うわっ」


彼の顔は真っ赤だった。

あまりの赤さにこっちまで驚いた。


「お前っ、びっくりさせんなよっ!」


いや、分かりやすすぎでしょ。

なにか隠してるのバレバレじゃないですか。


「なになに?なにしたの?変なことしてないよね?むっつりなの?」

「もう、うるっせーなお前!」

「隠す方が悪いよー。」


私がそう言うと、彼は少したじろいで、目を逸らした。


「いや、変なことっていうか、ただ単にお前が寝てる間に、髪の匂い嗅いだだけ…っていうか…いやあの!ほら!いい匂いしたから!!」


意味の解らない言い訳をし出した彼を私は細い目で見た。


「……ド思春期め。そのうち押し倒されるなこりゃ。」


私が冗談半分で言うと、彼はちらっと私を見て黙り込んだ。


「あーなに?それはなに?フリか?いいの?」


彼はひきつった笑顔でそう言った。




……え。ちょっと待って。


………まじですか。



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