界と界

□君が居てくれれば……
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んふ〜。最後に身をくねらせると、呆れたように深い溜め息をコンラートが吐いた。

「溜め息吐くと、幸せ逃げちゃいますよ」
「お前が来るまでは、幸せだったな。静かな夜だったから」
「酷い、グリ江傷付いた!」

相手をすることさえ飽いたのか、コンラートはソファーから立ち上がって、寝室の方に消えて行った。

「あらーん。誘ってるのかしらー……ぶひゃっ」
「寝言は夢の中で言え!」

戻ってきた途端、タオルと着替が顔面に飛んできた。
陛下との玉遊びの成果なのか、狙った通りに顔面にヒットしたのだ。

「さっさと風呂に入って来い」

言い放つやコンラートは、軽く呑むための準備をするためか、キャビネットに向かって、ヨザックに背を向けた。
コンラートなりの気遣いなんだが、もう少し愛が欲しいのはヨザックだけか。少なくとも、恋人にする態度じゃない。
きっとこれが猊下が言ってた『つんでれ』とかいうやつだ。

「へーい。じゃあ、風呂借りるぞ」

でもやっぱりそういう処がコンラートらしい。
一歩間違えば、死に直結するような諜報活動からようやく解放された。帰ってきたのだと実感するのは、こんなやりとりが出来た時だ。
勝手知ったる浴室の扉に手を掛ける。
互いに背を向け合ったまま、

「おかえり」

水に落ちる雫のように、何の飾り気もないその一言を溢した。

「ただいま戻りました」

背を向けたまま、ヨザックは浴室の中に消えた。
顔を見なくても、どんな表情をしていたのかなんてすぐにわかる。

「あぁ、落ち着くなぁ」

緩む顔に湯を浴びせて、ようやく帰ってきたのだと体を落ち着かせて、一笑する。

おかえり。
いつもその一言が聞きたくて、扉をノックする。
普段は隠してる本性が見れる度に、細やかな優越感に浸ってしまう。
此処に来ると、帰って来たんだと思える。



好きなんだと、自覚する。




コンラートの処が、唯一の帰って来る場所なんだと、再認識してしまった。



Fin.
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