界と界

□月桂降りて、哀史を刻む
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「……狂いたくなる時、いつもお前が受け止めていたな……」
「へぇ、奇遇だな。多分そういう時、俺はお前のことを無茶苦茶にしたくなっているんだよ。
今みたいに」

言い終わると同時に、ヨザックは噛みつくようにコンラートの唇を奪う。加減することなく、唇を割り、舌を絡める。コンラートもヨザックに応えるように絡めては、交わる唾液を嚥下して、離れそうになる唇をもう一度重ね合わす。

「ヨザ」

全てを許諾する意を込めて、囈言のように名を呼び、服に掛けた指に力が入れば、ヨザックの唇が首筋をなぞって下っていく。女にするような愛撫に身を震わせながら、正気が崩されていくのを待った。
理性を壊す激情と本能を晒けさせる劣情を与えてくれるヨザックに、コンラートは縋り付いた。

「……ヨザだけだ……。俺を狂わせて、救えるのは……」

正気を保たせるためにヨザックは、コンラートが伸ばした腕を掴んで、救いという名の屈辱を与え、狂気で正気を呼び起こさせ。
そこには恋情は存在することなく、獣たちが疵を舐め合う様に似ていた。ただ足りないものを埋め合うように求め合い、本能のままに重なり合う。
熱い楔を打ち込まれる度に、仮面を剥ぎ落ち、一人の男として地に堕ちる。


熱く、密かに、秘めやかに、決戦を前にした男たちは静かに闇の外套に包まれた。





Fin.
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