界と界

□月隠りの酒
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「予約席です。貴方の傍は」
「……覚えが……ないなぁ」

誰かと来た記憶がないから、こんな風にされる心当たりがない。首を傾げるヨザックを余所に店主は、小さな笑い声一つ落として他の客の所に行ってしまった。残されてしまった疑問を酒で飲み込んでいると、ドアベルが鳴った。

からん。

扉を閉めた後、逡巡してから客は歩き出した。

「……なんで……」

客はまっすぐヨザックの隣にやってきて、腰を下ろした。

「さぁ、なんでだろうな」

本当ならばここにいないはずの獅子が不敵に笑う。ヨザックはあまりにも突然の来訪に、どう反応すればいいのかわからず固まっていたが、コンラートは気にした風でもなく、注文せずに店主が出した檸檬色の酒を口にする。

「おい」

年越しのパーティーが現在行われている筈だ。こんな所で酒を呑んでいていいのか。更に言うなら、なんで注文もしてないのに酒が出されるのか。言いたいことは山ほどあったが、コンラートはちらりと一瞥した後、

「あちらは問題ない。だから来たんだ」

ヨザックは今度こそ絶句した。陛下命のコンラートが、陛下を放ってまでここに来たのだと告げたのだから、言葉も失う。茫然としている間に、女の置き土産だったグラスが店主の手によって片付けられた。

「い……いいのかよ」
「ユーリやグウェンの許可は取った」
「……」

もはや言葉が見付からない。
頭を抱えたが、結局は全てコンラートの意思と納得させて、浮かんだ言葉を沈めた。

「まぁ……、つまりはそうまでして俺に逢いたかったと?」

意地の悪そうなヨザックの視線を受け止めたコンラートは、グラスから唇を離して鼻で笑う。

「悪いか?」

そう言ってグラスに口付ける。
酒を飲み下すように動く喉笛に一瞬噛みつきたい衝動が湧いたが、流石にそれはまずいと理性で制して、視線を反らして臘燭を見た。
「いや。会えないとばかり思ったからな」
「ここにいなかったら、今夜逢うのは諦めていた」


空いたグラスの氷がからりと音を立てて回り、店主が酒を注ぎ足して再び離れていった。

「なんでここにいると思ったんだ?」
「お前の気に入りの店だろう。ここは」
「……なんで、知ってるんだ?」
「さてな」




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