界と界
□月隠りの酒
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今日ははぐらかされてばかりで、なんだか腑に落ちないヨザックは、消化不良を起こしそうだった。そんなヨザックを知ってか知らずかコンラートは、呑気に酒を楽しんでいる。
「もうすぐ日付が変わる」
それまでさざめいていた店内が水を打ったように静かになり、まもなく新たな刻を告げる鐘が遠くで響いた。
「新しい年に……乾杯」
あちこちのテーブルでグラスが重なる硬質な音が細く響いた。コンラート年にヨザックも例外ではなく、
「一緒に年を越せたことに」
「うちの上司の苦労に感謝して」
――乾杯――
かちんとグラスを鳴らして、何杯目かの杯に口を付ける。
「今年も良い年になるといいな」
「あぁ」
置いてきた名付け子でも思い出したのか、コンラートの瞳が柔らかい色を宿す。
「おーい」
「なんだ……っん」
呼ばれて振り向くその瞬間に、コンラートの唇を掠する。唖然とした表情を浮かべた後、慌て周りを見回す。運が良いのか、悪いのか、二人の口づけを見た人は冷やかすことはないが、そっとコンラートから視線を外した。
それがコンラートの恥を一層増させることになり、捌け口は当然ヨザックに向いた。
「ヨ……!」
「静かに。店の空気を壊すなよ」
当たられる前に、ヨザックはコンラートの口を塞いでしまう。渋々不満を飲み込んだが、腹いせにヨザックの手に噛みついた。
「!」
「ふん」
驚いて離れた手を鼻で笑って、グラスを空ける。
店主は何を言うでもなく、度数を上げた酒に変えたグラスをコンラートに渡し、ヨザックのものも変えられた。
「今度人前であんなことしたら……ただで済むと思うなよ」
「わかったよ。肝に銘じておく」
喉が焼けつくような辛味の酒を煽ったヨザックは、思い出したように不敵に笑った。
「お前も覚悟しておけよ。コンラート」
「何をだ」
わかっているが、あえてとぼけて危険を回避しようとしたが、ヨザックが易々と逃すわけもなかった。
「煽ったお前が悪い」
「知るか」
「おっ。そういうこと言いますか。だったら……たっぷりその体に教えないとな。
男を煽ると、どうなるかをな」
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