界と界

□月隠りの酒
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夜気で赤くなった耳元で低く掠れた声で囁くと、コンラートの体が微かに跳ねて赤みが増す。

「……嘘。期待したか?」
「ふざけ……るな」

からかわれたと気付いて腹を立てたが、これ以上の注目は避けるように語尾が萎んだ。はぐらかされてばかりだったヨザックは細やかな仕返しができたことに北叟笑み、コンラートは赤くなりながらも睨み付けてくる。

「仕事に穴を開けるのはまずいだろ」
「当たり前だ」
「まぁ…でも……、忙しくなくなったら……覚悟しておけよ。噛まれた分はきっちり返すからな」

忘れることを許さぬように、コンラートの耳朶を噛み、何事もなかったように酒を煽る。酒が回ったのとは訳の違う熱に赤くなったコンラートは、片手で顔を覆ったが、耳の赤みまでは隠せなかった。

「今年もよろしく」
「いつか……縁を切ってやる」

そう言いながらも、今まで切れたことがない関係で、それが照れ隠しなのはすぐに察せられる。
コンラートの毒吐きを聞きながら、ヨザックは今年はどんな年になるのやらと想像していた。
願うべくは、この隣の獅子が苦しむことなく、笑っていられること。
なんて健気なんだろうと笑ったら、隣のコンラートがそれを見たらしくひどく立腹していた。

「まぁ、そう怒るなよ。ここは奢るから」
「当然だ」

そうは言っても、コンラートがそれほど呑めないと踏んだ上で、ヨザックは提案したのだった。既に城でも呑んだ上での酒ならば、よくて後二・三杯。その間ぐらいは可愛くないコンラートを見ているのも悪くはなかろうと、ヨザックはコンラートの愚痴に付き合った。

「多分今年もこんな感じなんだろうな」
「何か言ったか?」
「いや」

また一つの年を刻めたことに喜びを感じながら、ヨザックはコンラートの髪を払う。

「今年もよろしくな」
「ん」

幾分子供っぽくなったコンラートに笑みを洩らして、グラスを空けた。

願うのはただ一つ。
平和であること。
たったそれだけを願って、ヨザックは更ける夜を静かに感じた。




Fin.

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