界と界

□背中合わせの恋心
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昔、周りがとても鬱陶しいと思う時期があった。
人間との間に産まれた王太子殿下ということで、いつも好奇と侮蔑の視線を浴びせられ、放って置いて欲しいのに、いらんちょっかいを掛けられ、人間不信で自虐的な性格が着実に出来上がっていた。
容姿がそこそこであったために、好む好まざる関係なく女たちは寄って来て、遊び程度の付き合いが主だった。
基本的に誰にも深く干渉されたくはないという態度が、仇となって女たちが寄って来るとは考えもせずにいた。

独りになりたくて向かうのは、荒れ野。
好き勝手に伸びた雑草が茂り、人が容易に立ち入ることが出来ないこの荒れ野はかなり気に入っている。
服が汚れるのも気にせずに、ドサリと腰を下ろして持ってきた酒瓶を隣に置いた。
こんな姿を貴族たちが見たら、失笑を買うだろうが、今はそんなものを気にする必要はない。

「ラッパ呑みは頂けませんよぉ」

不意を突いたようなタイミングで、薮から顔を出したのは、振り向かなくても誰だかわかる。

「俺の勝手だ」
「そうっすねぇ」

いい掠れ具合の声に苦笑を滲ませたヨザックは、背中合わせで座り込んだ。

「おい」
「たまにはいいでしょう。背中合わせで、酒呑むのも」

そう言って、ヨザックは持参した酒に口をつける。人のことを窘めておいて、ヨザック自身もグラスを使っていなかった。

「……重い」
「温かいっすねぇ。隊長は」

不満を口にしたが、あっさり躱された。
言われてみれば、人肌を感じるのはどれくらい振りだろうか。
背中越しに伝わる熱はとても温かく、凝った胸の澱を溶かしてくれた。



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