界と界
□散華
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謎な言葉は風に揺られた。
コンラートは一旦愛馬の元に行き、持たせていたモノを持って来る。
「ここが俺にとっては、あの大戦の終わりの地だ」
コンラートの手から離れた純白の百合が風に運ばれる。
「ここで、俺も一度は死んだ」
緑の茎から引き離された花弁が一枚、また一枚空に舞う。
「過去の己自身への手向け」
舞い上がる花弁が、ふわりふわりと一枚、また一枚降っていく。許しを求め地に這う人間たちを救う天上からの使者たちが纏う羽根のように、ゆっくりと舞い落ちる。
「キザだねぇ」
「茶化すな」
「まっ、あんたがやるから様にもなるよな」
最後の一枚が消えるのを見送ったヨザックは、悪戯が成功した子供の笑みでコンラートを見やり、二人で肩を竦めて笑い合った。その姿は、空が朱色に変わるまで転げ回った子供時代と変わりなかった。
だからだろう。
「ヨザ。ありがとう」
普段ならば沈めてしまう言葉が唇に乗るのは。
「どういたしまして」
空高くを舞う孤高の鳶が高らかに鳴く。その声音はひどく寂しげだ。
「あんたの世話は俺にしか焼けないだろ」
「そうだな。そこまでいうなら、たっぷり迷惑を掛けてやろう」
「嫌な男だねぇ」
「残念ながら、これが俺なんだよ」
高らかにもう一度鳴く鳶の声に呼応する声が一つ。見れば西の空にもう一羽鳶がいる。
「どこまでも付き合いますよ」
孤高の鳶の元に馳せた鳶は旋回して、後ろに付いた。そこが定位置とでも言いたげに。それは誰かに似ていた。
「そうか」
鳶を東に運んだ風が駆け抜け、草原を波打たせる。
本来の姿を取り戻し始めた大地が、瞼の裏に焼き付く光景をゆっくりと遠ざけていくのを感じながら、瞼を閉じる。
『もう、大丈夫だ』
「……行くか」
「どこまでもお供しますよ」
自由に羽ばたくものたちが東に行くなら、地を行くものは西に行こう。
ざわりと鳴いた風が、二人の背を見送った。
fin