界と界

□散華
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乾ききった風が死臭を運ぶこともなく、砂塵がどす黒く染まることもない。大地には罪を覆い隠してしまうように、草葉が蔓延り、色とりどりの可憐な野花を咲かせて、この地に眠る者達を癒やしていた。朽ちかけた建物も復旧作業の跡が見られて、時間が確実に過ぎ去っていることを知らせている。
ヨザックはちらっとコンラートを盗み見た。帰還してまもなく、この地に行きたいと口にしたコンラートの真意を掴むために。

「……すまない。こんな所にまで付き合わせて」
「いいのよん。俺とあんたの仲じゃない」
「……確かにな」

てっきりどういう仲だと切り返してくると思っていただけに、ヨザックはコンラートのことを不覚にもまじまじと見つめてしまった。それに気付いたのか、コンラートは苦い笑みを掃いた後、憎らしいくらいに晴れ渡る空を見上げた。

「……俺は、知らないことが多かったということに気付かされた」

銀砂の瞳が瞼の向こうに消えていく。過去を遡る沈黙。再び開かれた瞳が悲しげな色を見せる。

「どれだけ支えられていたのかってことを、考えさせられた」
誰を思い出したのか。
無力さを嘆くように込められた手の力がゆるゆると解かれて、掌から零れる。後悔か、寂寥か、憤激か。語らぬ代わりに見せた表情は、ひどくすまなそうなものだった。

「俺は、お前に……甘え過ぎていたな」
「……っな」
「すまない」

自己完結の言葉はまるで別れの言葉だった。それもヨザックの言葉など求めていないほどにはっきりとしたもの。ヨザック自身はあまりにも突然過ぎる言葉に頭が付いていかず、無意味に音を紡ぎ掛けた唇だけが空気を求める魚のように開かれた。

「間抜けな顔だな」

悪ガキの不敵な笑み。揶揄われたと気付いた時には、その笑みが笑いに転じて肩を震わせるコンラートがいた。

「揶揄ったのねぇ」
「変にお前が距離を探るからだろ」
「……ばれてたのかよ」
「気付かれてないと思う方がどうかしている」
「……さいですか」

腐っても幼なじみというべきか。なんとも言えない溜め息を零したヨザックを余所に、コンラートの視線は再びあの時の匂いを感じさせない地に注がれていた。

「どうして来たかったんだ。ここに」
「……終わりに、手向けをしたかった」
「……は?」



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