界と界

□夢魔が降り立つその夜に
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「…ン…ラ…ト……コンラート!」

肩を揺さぶられる感覚と名を呼ばれるのをようやく知覚し、そして伝令が全身に伝わることで、コンラートは泥沼のような眠りから引きずり上げられた。枕元の灯に照らされているのは、幼馴染みであり戦友、肩書きは数あれど、夜の寝室を共にできる関係にあるヨザックだった。お互い何も身に着けていないまま寝たのは、そういうことをした後だから。
まだ眠った頭を動かして、コンラートは現状を確かめるようにヨザックを見やると、親指が目尻を撫でた。

「魘されてた」
「……俺が?」
「そう……。だから起こした」

体を起こすと、タイミング良くヨザックは水が注がれたグラスをコンラートに手渡し、がりがり頭を掻いた。知らぬ間に枯渇していた喉に水がゆっくり浸透していく。
そして思考も冴えていく。

「悪かった……手間を掛させた」
「あらん、いいのよ。アタシとの仲でしょう」
「……そうだな」

絶妙なタイミングで女言葉を使ったヨザックに、それ以上何も言わずにグラスを返した。
グラスがサイドテーブルに置かれるのを聞きながら、ヨザックに背を向けて横たわる。灯が消え、再び藍の闇が落ちた。
沈黙の中、激しい風が窓を鳴らし、大粒の雨がひっきりなしに窓へ体当たりしては、その身を砕く音が大きく響かせていた。
その音に耳を向けていたせいで、ヨザックの洩らした言葉にコンラートは反応が遅れた。

「……あんた、許せないんだな。自分を」

悲鳴のような風が吹き荒む。

「……何?」

暗闇の中、問い返してみればコンラートの古傷が残る脇腹をヨザックの指がかすめ、後ろから抱き締められる。

「あんた一人でなんでも抱え込み過ぎ、俺にも少しぐらい分けてみろよ」
「ヨ……ザ」

子供時代はあんなに貧相だったのに、今では見事過ぎる筋肉質になったものだと、頭の隅で考える。
存外に心地良いと感じるようになったのは、いつのことだっただろうか。
コンラートは取り留めなく考えて、溜め息を一つ溢した。





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