頂戴品

□香檻
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「そっれが聞いてくれる―!?アタシを巡って男たちが争っちゃってぇ、ちょっと大事になってきたんで逃げようと思ったわけよ―、ほら、アタシ一応お仕事だったから目立っちゃいけないと思ってね?そしたらあとちょっとのところで目聡い男に見つかっちゃって、今に至るわけ―。いやだグリ江ちゃん貞操の危機―」
「……もうどれから突っ込んでいいのかわからない」
「い・や・だ隊長までアタシの躯が目当て?でも駄目よん、隊長がアタシに突っ込むんじゃなくてアタシが隊長に突っ込っ…てぇって何だよ軍服投げることないだろ―?」
「いや、あらぬことを言いそうだったから思わずな。それに背中、破れてる」

こちらに向かって走り込んでくる、言葉が非常に品のない幼馴染みが止まる気など毛頭ない様子に、半ば以上つられるようにして隣を走るコンラートは腹の底からため息を吐いた。
走りながらシャツの喉元を少し緩めて、後ろを振りかえる。

二・三人の男がまだ追い掛けてきていた。もうあの男たちも意地だな、とコンラートはそう思う。しかし、仮にも現役諜報員と護衛の足を以てしても巻くことができないとは大した意地だ。
「お前の言動に不備は?」
「失礼ね?こんな優秀な諜報員を目の前にして」
「あぁ、そうだな」
服からして不備だらけだが、と、ちらと眸を向けたが、この幼馴染みにとってはいつものことだ。そんな失敗するとは思えない。だがもうひとつ浮かんだ可能性はもっと想像がつかなかった。それでも、コンラートは一応聞いてみることにした。

「じゃああの男たちは、お前を本当に女だと思って追い掛けているのか、本当に?女性だと?」
「まぁ無礼ね?こんな美女を捕まえて」
「……………あぁ、そうだな」
三百歩譲って見た目女性に見えるとしてだ、端からみても軍人な自分と息一つ乱さず追走している段階で、おかしいと思わないのだろうか。
ここまで着乱れていて、渡した軍服もあまり役には立たず上腕二頭筋どころではない隆隆とした筋肉が見えるのだが、とか考え出したら限りがない。とりあえず建設的に煙に巻く方法を頭の中で組み立ててみる。

ありきたりで陳腐な方法しか浮かばなかったが仕方ない。
「ヨザ、お前服は」
「一応スカートの下はズボン穿いてますけど―、くるくるに巻いて」
「スカートじゃないか……、まぁいい、わかったヨザ三軒目の脇道右に入れ」
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