界と界

□君が居てくれれば……
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とっくり深まった夜というより宵の口くらいの時間。夜色の天幕にパラパラと撒かれた宝石が瞬きを繰り返している。
今一番会いたい男の瞳にも、あんな風に星が散っていた。虹彩がどうとかいう、何故そんな風に見えるかなんて小難しい話は知らないが、ただ綺麗だと思っている。
仮令、同じ瞳をした者が何人いたとしても、あいつ以上に綺麗な星を持ったやつはいないと思う。惚れた弱味かもしれないが、別段かまわない。
弱味になっても、弱点にはならないから。




機能重視の軽装で上司に報告し終えたヨザックは、その足で元上司の元に向かっていた。
訪ねる時間は気にしない。
互いに遠慮し合わなければならないほど、付き合いが浅いわけではないから。下手をすると、血の繋がった身内以上に腹の中を見せ合えるくらいの仲である。
名目は帰還の挨拶だが、酒を呑んで、一夜の宿を借りるという思惑も潜んでいた。仮宿はあれども、帰って来た晩くらいは、彼人に会いたい。早く会いたいから、仕事も手を抜かず早々に片付けている。
なんて健気な俺。
言ったら、絶対鼻で笑われるから言わないけど。

夜の静かな回廊を進み、目的の扉に立って深呼吸と身だしなみチェック。
問題なしとなれば、二回のノック。

「開いてる」

なんとも愛想の欠片もない返事は、そこにいるのが誰かとわかっている証。誰にも見せようとしない顔を見れる優越感に、嬉しすぎて我慢できずに頬を緩ませた。

「失礼しまーす。隊長」

にへらと頬を緩ませたまま入室すれば、ここを発つ前と変わらぬ姿のコンラートが、ソファーに腰かけて本を読んでいた。

「ヨザック……だらしない顔をどうにかしろ」
「いっやーん、つれないわね。隊長ったら」

相も変わらぬ容赦ない毒舌を、特に気にしない。これが標準であるから気にしてもしょうがない。むしろこうして、本性出してもらった方がヨザックとしては嬉しい。
他の誰にも見せない姿だから。

「……そっちも、相変わらずか」
「そうでーす。グリ江は、元気もりもりよん。ばっちりお仕事も決めて来ましたぁ」




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