界と界

□暗涙
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いつも泣く時は一人でと決めていた。誰にも見られない所で、たった一人、声を殺して泣くようにしていた。
泣いている所を誰かに見られたら、母に迷惑が掛るかもしれない。嫌われるかもしれない。そんな不安があって、今日も見張りの目が、届かぬ薔薇の生け垣に隠れて一人、蹲っていた。

「う…ひっ…く……う…」

父が逝ってしまってから早数ヵ月、可愛がっていたヴォルフラムに嫌われて同じく数ヵ月、コンラートは広すぎる血盟城で孤独を抱えていた。
数少ない理解者だった父が逝ってしまってから、皆がコンラートを否定した。二つの血を持つために否定され、誰も傍には居てくれない。
守ってくれなくてもいい。ただ隣に居てほしい。
細やかな願いは、ここでは聞き入れてはもらえない。
友人たちに会いたい。
否定され、今にも潰れそうな不安の中にいたくない。

「うっ……父上」

ぐしゃぐしゃに泣き続けて思うのは、父のこと。あの頃は、辛いこともあったが、幸せだった。
どんな言葉を言われても、父が傍にいてくれたから良かった。
でも今はたった独り。

「……うっ」

嗚咽を洩らした瞬間、がさりと芝生が鳴り、誰かが此方にやって来た。肩を跳ねさせ、濡れた顔を袖で拭おうとしたが、それより先に声が掛った。

「……誰だ……っ!」

その声にコンラートは身を固くさせた。声を掛けてきたのは、人間を嫌い、自分も嫌っている異父兄だった。
グウェンダルも何故か固まっていたが、コンラートは気付くことなく下げていた頭を更に深くして、縮こまった。
気まずく、重たい沈黙。
願うべくは、このままグウェンダルが立ち去ってくれること。
しかしコンラートの願いに反して、グウェンダルはコンラートの前に回って、服が汚れることも気にせず、膝を着いた。

「口さがない者たちが言うことだ。気にする必要はない。
……誰がなんと言おうと、お前は私の弟だ」

コンラートが何も言わなくても、何故泣いているのかを瞬時に介したグウェンダルは、ぎこちない手でコンラートの頭を撫でた。
グウェンダルはコンラートが欲しかったはっきりと言葉を口にした。
よく一人で頑張った。もう大丈夫だ。
頭を撫でながら、そう囁いて、コンラートの凍りそうだった心を温める。




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