界と界

□背中合わせの恋心
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久しぶりに休暇を突然言い渡された。

「……休み?」
「そうだ」
「俺が?」
「あぁ」

実兄、グウェンダルは相も変わらぬ眉間に皺を寄せて、短く二回肯定を口にした。
あまりに唐突な休暇に、ただただ首を捻らすことしかできない。
確かに、今現在は護衛対象のユーリは地球に戻っているために、暇と言えば暇だが、一応探せばやることはある。
国境の視察とか、部下の訓練とか、執務の手伝いとか。

「何故、突然休暇なんて言い出したのか、訊いても?」
「私が言い出したことではない。魔王が……、自身がいる時は四六時中任務のために、お前の時間がないことを気にしてだな。地球に戻っている時ぐらい好きに時間を使わせてやりたいとのことだ」
「……ユーリ」

意地らしいというか、なんというか。名付け子の思い遣りに、ただ破顔するとグウェンダルもふっと笑みを溢した。

「休暇ぐらい、羽を伸ばして来るといい」
「そうさせて貰うよ」
「あぁ」

言葉がなくともこの兄がどれだけ気を掛けてくれているかを知っている以上、休暇の申し出を断る気は失せている。とりあえず今は、突然手に入った休みをどう過ごすかを考えよう。

「グウェン」
「何だ?」
「無理は体に毒だよ」
「わかっている」

一礼して、グウェンダルの部屋から退室した。

「さて、どうするか」

ぽっかりと空いた午後から数日間の予定を、どう埋めようかと天井を仰いで、考えが唐突に巡り着いた。
何故か浮かんだのは、いつも側にはいない男の笑った顔だった。



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