界と界

□甘美な誘惑にして残酷なもの
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沈黙ばかりが支配する室内では、季節外れの暖炉が活躍していた。
夏本番を前にした霖のせいで、非常に肌寒い。そのために、短時間だが、暖炉に火を入れて室内を暖めている。
外はバケツを引っくり返したような土砂降りの雨で、外の世界は霞んで見えない。
地を抉るような雨音以外は、時折爆ぜる薪の音だけが室内に響く。
室内にいるのは二人の男。
まだ十代くらいの少年と言っても差し障りないぐらい若い男たちは、同じ部屋に居ながら、会話をすることもなく、安酒を呑んでいた。
一人は暖炉の煉瓦に立ったまま寄り掛り、もう一人は椅子の背を前にして暖炉の前に座っている。
行儀に気を使う必要のない安宿であるからか、直接酒瓶に口づけている。

「何故……俺たちは存在するんだろうな」

寄り掛っていた男は、己の思考迷宮から帰還したと同時に、そう口にした。
話掛けられた男は特に驚くこともなく、唇を歪めて瓶を傾けた。

「唐突だな」
「そうだな……。だが、どうしてだろうな」

食い下がるように重ねて問い掛けられると、酒瓶から口を放して僅かな逡巡の後に出たのは、

「人間と魔族が契って産んだから」

至極まっとうな答えだった。




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