love

□Midnight calling
1ページ/2ページ

あなたが思っているより、
俺はたぶん弱虫だ。

深夜1時あたりの、ベッドに寝そべったカーテンの隙間からのぞく
自分が思っていたよりずっと狭いその夜空が
俺はとても嫌いで、

胸の中の騒がしさにもうんざりしていた

「...くん、」
普段の憎まれ口とは裏腹に
甘えた声で一人、ベッドに寝そべったままで貴方の名前を呼ぶ

情けないけれど、
とてつもなく貴方に会いたくなるのがこんな夜なんだ。

俺を、この夜空から連れ出してくれるのは
貴方の声
貴方の肌、
貴方のすべて、




まだあいつが酒に遊ばれていることを祈りながら
そっと受話器をとる。
コール音が増えていく度に、偏頭痛はひどくなった

ああ、薬飲まなくちゃ。



―はい...ん?どしたん、こんな時間に

コール音は3回目で止まる。
彼は、コールが2回を越えるときちんと詫びを入れる癖があった。
きっと、溢れるくらいの女を相手にしてるうちに身についた術だろう。

たとえそうだったとしても、彼の優しさが垣間見えるその癖が、
俺は愛しかった

この時間に聞く柔らかな彼の関西弁が僕は何より好きだ
さっきまで頭を重くしていた偏頭痛だって収めてしまうくらいの優しい声。


「...ねえ、今何杯目?」
「ええと...たぶん5杯。」

通りで、声が火照っているわけだ。

もう若くないんだから、
いい加減テンションに任せるのやめなさいって俺を咎めたのはどっちよ?

「5杯!?あんたね...」
「うん、面目ないわ。...あと5分まっとき」

彼は受話器の向こうで得意げに含み笑いをした
きっとこの受話器を隔てて、目を伏せながら随分色っぽい顔をしているんだろう。

それだけで彼が飲んだ5杯分の熱を自分が纏っているような気になる
俺はいつまでたっても単純だ



彼は、自分から「今から会いに行くから」なんて
格好のつかない台詞は喋らない。

ちょっと古臭いんだよね。
古臭い気障な野郎に惚れきってしまうのも、案外楽しいもんだけど

「5分?...おう」
精一杯意地を張って、電話を切ると
俺はまたベッドに寝そべった

甘い5分間、
無機質な電子音が、とんでもなく楽しみな5分間。

時計の針はいつもより寝ぼけていて
ゆっくりゆっくり進む。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ