love
□三日月の夜に
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「安心し、今日は三日月や」
窓の外の、ネオンをなんとかくぐり抜けた
情けない色の三日月を指して
勝ち誇ったように笑ってみせる
ロマンチックな話なら譲らないってか?
だけど、今日はあんたの勝ちじゃない。
宣戦布告の代わりに煙草に火をつけて、窓を開ける。
あんたの家の玄関がもうすぐそこに見えてるから
今日の遊びはここまでだ。
「近頃は三日月でも狼が出るんだよ、」
ウインクの一発でもかましてやりたいところだけど
それはもっと綺麗な女の子のためのサービスだ。
わざわざあんたなんかにあげるようなもんじゃないから
窓の外を見たまま、黙ってドアのロックを外す
「さ、着いたよ」
「...ありがと。
ああせや、狼には気をつけるわ、
おっかない牙で噛み付かれたら大変やもんな?」
俺があんなに頑張ったのに、
彼は楽しかったで、とでも言いたそうに不敵に笑いながら
唇の端を指でとんとん、と2度つついた
今の俺にできる精一杯の格好つけは、
彼のお情けで上がった白旗を
鼻で笑って一蹴するくらいだ。
ああくそ、今日も俺の負けか。
*天使のような微笑みにキッスできたなら*
(もうなんにもいらない)