main
□bitter, and later sweet
1ページ/8ページ
北風吹き荒ぶ2月。
文字通り、木の葉の里にも枯葉いちまい残っていない。
「ナルト!先に行くわよ!」
解散するや否や、サクラが踵を返し駆けて行く。
怒り口調だがどこか浮き足立っているのをナルトも感じていた。
「サクラは、何か用事かな?ずいぶん急いでいたね」
サイが、サクラの背中を見遣りながら聞いてきた。
「あー、たぶん、チョコレート買いに行ったんだってばよ」
「チョコレート?‥ああ、バレンタインの」
「ウン、サクラちゃん、誰にあげんのかな〜?」
ニッと笑って返せば、サイの漆黒の瞳は全く笑っていない。
作り笑顔を止めたサイは、しかし感情豊か、という男ではないようだ。
「ナルトに、じゃないことは確かだね」
「うるせーってばよ!」
軽い応酬の後サイと別れ、商店街を抜けて自宅へ向かう。
(‥さみー‥)
ナルトは冬が苦手だった。
任務中は暑さ寒さも気にならないが、里では肩を竦めてポケットに手を突っ込み、背を丸めて歩く。
まるで、カカシのような姿勢だ、と気づいたら可笑しくなった。
(カカシ先生、今年もたっくさんチョコ貰うんだろーな‥)
カカシが里にいる年は、大きな紙袋幾つもに詰まったチョコレートを抱えて歩くあの猫背の姿は、もうバレンタインの風物詩と言ってもいい。
例年、彼が意図してその数日間に任務を請けていることを知ったのは、つい最近のことだ。
(今年はどうなんだろ、任務‥)
実は恋人同志である二人。
昨秋から付き合い始めたので、初めて迎えるバレンタインだ。
意外とイベントや記念日を気にするのはカカシのほうだった。
ナルトは、その持ち前のオトコノコらしさで‥クリスマスも、イブ前日になって慌ててプレゼントを準備したのも記憶に新しい。
(ってかさ、やっぱりオレがカカシ先生にチョコあげるのか?)
れっきとしたオトコである自分があの華やかなチョコレート売り場にいるのは確実に場違いだし、何より恥ずかしい。
それに、カカシはもちろん、ナルトだってその日には幾つかチョコレートを貰うだろう。
貰ったり、あげたり複雑だなあ、とナルトはため息をついた。
そもそもオトコ同志でつきあっていることのほうが複雑なのだが。