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□bitter, and later sweet
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北風吹き荒ぶ2月。
文字通り、木の葉の里にも枯葉いちまい残っていない。


「ナルト!先に行くわよ!」


解散するや否や、サクラが踵を返し駆けて行く。
怒り口調だがどこか浮き足立っているのをナルトも感じていた。


「サクラは、何か用事かな?ずいぶん急いでいたね」


サイが、サクラの背中を見遣りながら聞いてきた。


「あー、たぶん、チョコレート買いに行ったんだってばよ」


「チョコレート?‥ああ、バレンタインの」


「ウン、サクラちゃん、誰にあげんのかな〜?」


ニッと笑って返せば、サイの漆黒の瞳は全く笑っていない。
作り笑顔を止めたサイは、しかし感情豊か、という男ではないようだ。


「ナルトに、じゃないことは確かだね」


「うるせーってばよ!」


軽い応酬の後サイと別れ、商店街を抜けて自宅へ向かう。


(‥さみー‥)


ナルトは冬が苦手だった。
任務中は暑さ寒さも気にならないが、里では肩を竦めてポケットに手を突っ込み、背を丸めて歩く。


まるで、カカシのような姿勢だ、と気づいたら可笑しくなった。


(カカシ先生、今年もたっくさんチョコ貰うんだろーな‥)


カカシが里にいる年は、大きな紙袋幾つもに詰まったチョコレートを抱えて歩くあの猫背の姿は、もうバレンタインの風物詩と言ってもいい。
例年、彼が意図してその数日間に任務を請けていることを知ったのは、つい最近のことだ。


(今年はどうなんだろ、任務‥)


実は恋人同志である二人。
昨秋から付き合い始めたので、初めて迎えるバレンタインだ。


意外とイベントや記念日を気にするのはカカシのほうだった。
ナルトは、その持ち前のオトコノコらしさで‥クリスマスも、イブ前日になって慌ててプレゼントを準備したのも記憶に新しい。


(ってかさ、やっぱりオレがカカシ先生にチョコあげるのか?)


れっきとしたオトコである自分があの華やかなチョコレート売り場にいるのは確実に場違いだし、何より恥ずかしい。
それに、カカシはもちろん、ナルトだってその日には幾つかチョコレートを貰うだろう。


貰ったり、あげたり複雑だなあ、とナルトはため息をついた。
そもそもオトコ同志でつきあっていることのほうが複雑なのだが。
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