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□冬の蜜
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刺すような冷たい空気を切り裂いて、里へ駆ける。


慣れない単独任務の帰り、だいぶ疲弊してるけど気分は上向きだ。
上忍としての任務は上々に全うしたし、何より明日は休暇だ。


こんなに休みが待ち遠しいなんて、とナルトは自分の変わりようにくすぐったい気持ちになる。


家族の待つ暖かい部屋や食卓がことさら羨ましく思えるこの季節は、苦手だった。
それでなくても人恋しい冬に休暇を貰っても仕方なく、修業に精出すのが毎年のパターンだ。


(それで強くなれたのかもしんねーけどな、)


上忍になり、7班としての任務は自然となくなった。
ヤマトとサイは暗部と正規任務を掛け持つ忙しい日々を送っているし、サクラは今や火影の右腕として引っ張りだこの一流医療忍だ。


ナルトは単独任務や、中忍以上の隊を率いてAランク以上の作戦を任されることが多くなった。
目下飛ぶ鳥落とす勢い、次期火影候補にも名前が上がる忍なのである。


もう1人の7班 ーカカシは、再び上忍師としてアカデミー出たての下忍の指導にあたる毎日だった。


ナルトは今夜、そのカカシと会う約束をしている。


先月、久しぶりのカカシとのツーマンセル。
難易度は高くとも半日でその任務は終わったが、カカシが別れ際に
ナルトを誘ったのだ。


『ナルト、今度の休みにゆっくり飯でも食わないか?』


そのあとで、小さく付け足した言葉‥

ー もし、先約がなければ、だけど ー


そのカカシの、いつになく言い淀んだ照れくさそうな横顔を見たとき、自分が元・生徒や部下として誘われたのではない、と気づいた。
それは、ジワジワと湧き上がってきた嬉しさとともに、ナルトを侵食していった。


(カカシ先生が、オレと2人で過ごしたい、と思ってくれてる)


過去のカカシとの関係では、あり得なかった展開だ。
修業をせがんで見てもらったり、一楽で奢ってもらったり。
いつもほとんどナルトが願って、カカシが聞き入れて初めて成り立つ時間だった。


騒々しいが意外と本当の意味では甘え下手で、他人との距離が詰められない子供だった自分。
今になって考えれば、幼少期に両親がいなかったという簡単な原因だ。


愛されなければ、自分から愛するという自然な感情でさえ学ぶのは難しい。
ましてや、その生い立ち故の敵の多さにしろ、幼い頃に受けた心の傷にしろ。
ナルトが他人と親しい関係を築いて来れたのは易しいことではなかったのだ。


好きならば、好きと叫んで、キライならばケンカ腰。
7班結成当時の不器用な自分を今なら可哀想で愛おしく思う。


カカシのことを大好きな訳ではなかったが、無償の信頼と尊敬を抱いていた。
それは対等な仲間と認められた今でも変わらないし、揺るがない。


でも、自分は「カカシ先生」という忍を必死で見つめ、追いかけてきただけだ。
殊更に、「はたけカカシ」個人に踏み込もうとしなかったことを、ナルト自身も気づいている。


(カカシ先生のプライベートなんか、全然知らないもんな)

(異様にモテるとか、実は美形だとか、そういう誰でも知ってることばっかりだ)


そして‥
敢えて自分がそこに踏み込もうとして来なかった理由にも、薄々気がついている。
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