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□文鳥と狼
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僕は戦慄した。

どのくらい驚いたのかというと、病院のベッドから転げ落ち、ナースが止める中逃げ出すくらいには驚いていた。

ついでにいうならベットから落ちた時に頭を打ち付け、ドアに衝突し、階段から落ちそうになってまで僕は止まらなかった。体のあちこちから地味な痛みがじくじくと疼く。

先ほど病院で目を覚ましてからの光景が今も目の中に焼き付いたように鮮明に思い出せてしまう。

今までに見たこともない、あの、珍妙な光景。


(な、な、なんで!?)


どこを歩いても走っても同じ景色。

様々な目玉が様々な形でこちらを見て、僕はその前を全速力で走り抜ける。いつもより体が軽い気がする。誰も僕が入院患者(ついでに脱走中)だとは思わないだろう。

慌てていたから靴の有無なんて気にしている暇はなく、僕は裸足に病院服のままだ。

でも病院に戻るわけにはいかない。僕を取り巻いている問題はまだ解決していない。なりより人の目があるところでは息がきれても足が痛くても走ることを止められはしない。

早く落ち着ける場所に行きたい。こんなものは夢だと思いたい。

どうして、こんなことになったのか。


僕は今まで、ごく普通に学校に通い、食事をし、睡眠をし、平々凡々な生活をしてきた。
平均の生活。
むしろ僕自身平均の人間ーーと、なんの変哲もない生活のはずだった。

学校の少し暴君な先生に買い出しを言い渡されて、その帰りに事故に合うとは夢にも思っていなかったが。

それでもこの現象の説明はつかない。

僕の目は、脳みそは、事故の衝撃でおかしくなってしまったのだろうか。


(じゃないと…!)


この状況の説明がつかない。





「ここは動物園ですかぁぁぁぁあああ!」


ありえない。周りの人間が全てを動物に見えるなんて。



゛先祖返りになった日。"





公共の道路を病人服で駆け抜けて行く様はさぞかし滑稽だったであろう。

しかし僕にとってはそんな奇行より、見た周囲の奇妙のほうが圧倒的におかしかった。非日常だった。

こちらを見る猿、狸、リス、猿…中には熊なんかもいる。そして猿。なんだか猿が一番多い。

中にはちゃんと人間に《見える》ものもいるけど、《見えて》いるものと《視えて》いる者が違う気がする。

僕には道行く人すべてが、人以外の【何か】に《視える》のだ。


(僕が寝ている間に地球は宇宙人でも支配されたのか!?)


そのせいで人間は動物的なものに変えられてしまったのだろうか。

それともこの目の前にいる人すべてが宇宙人そのものだろうか。

僕は、寝ていたと言っても意識を失っていたのはたった一日だと蛇の顔をした医者(なんかリアルハァハァしていた)は言っていたのを思い出し、たった一日で世界征服できるだけの技術が宇宙にはあるのか、とそんな意味のないことを考えて現実逃避する。

何が、どうしてこうなってしまったんだろう。




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