おとぎばなし
□"友人"
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リクエストボードの前でさっさと仕事を選んで、焦りから紙を乱雑に千切れば、酷い破れ方をした。
そんな様子を見ていたミラとルーシィには苦笑いされたけど、そんな事気にしてられない。
ぱっ、と時計に目を移せば、まだ会いたくない人がやってくる時間。
『やっばい…じゃあね、ミラ、ルーシィ‼︎』
愛用のジャケットを着て、慌ただしく出て行く私に、"無理しちゃ駄目だよ"って優しく声をかけてくれた2人。
"無理なんかしないよ"って笑って言いたいけれど、まだ言えない。
まだ、私には辛い。
さっさとこの場から逃げたくて、あなたに会いたくなくて。
ドアにタックルするように外へ出れば、勢いが良すぎたらしくて。
転ぶ事を予想して目を瞑れば、硬い何かに当たる。
『ひゃあっ‼︎』
「うおっ‼︎あっぶねェな、誰だよ…」
嫌という程に聞いた声に、独特な体温。
私が1番会いたくなかった人にあってしまった様だった。
『あ……ナツ…』
「あ、おう……」
ナツもまさか私が飛びたしてくるとは思わなかった様で、大きな目が余計に見開かれていて。
2人で転びそうになったままの体制で固まって、気まずい沈黙が流れる。
でもすぐにナツは我に帰ったようで、"大丈夫か…?"なんて優しく起こしてくれて。
そんな優しさなんて要らない。
みんなと平等に降り注がれる、優しさなんて必要ない。
欲にまみれた私を見て欲しくなくて、ナツと目を合わせるのを止めて。
掴まれた腕をすぐに振りほどく。
『…ごめん、ありがとう…私、行くから…』
泣きたくなるのを我慢して口早に言い残して。
いつもよりも早く歩き出す。
「……っごんべさん‼︎」
走り出そうとしたところで貴方の声に止められて。
いま何か話したら泣いちゃいそうだから、俯いたまま振り返らず、その場に止まる。
するとナツの苦しそうな声が聞こえてきた。
「…あ、のさ…俺、あの時…」
『もういい‼︎』
『もう、いいから…』
言葉の先を聞きたくなくて、ナツを制止して、走り出した。
謝罪なんていらない。
そんなの余計惨めになるだけ。
涙が頬を濡らして行く。
聞き分けのいい女になるから、またあの日みたいに笑って話せるようにするから、だから。
それ以上、私に何もしないで。
お願いだから、この思いを掘り起こさないで。
私はただひたすら走った。
あなたへの"好き"を抱えながら。
【"友人"】
私とあなたはそんな関係。
そんな事、痛いくらいに分かってる。
(…ごんべさん)
(俺、お前の大切さに気付いたんだ…)
でも、気づいた頃には遅かった
もう君を傷つけた後だったんだ。
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