劣等感

□不幸の上に咲いた七色の虹
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私は明日、死ぬ事に致しました。

彼女と出逢ったのは、そう遠く無い、春色の桜が咲いたあの季節でした。
彼女の名前は美嘉。その名の通り、美しく、そして止め処無い優しさを持った女性でした。
美嘉と私は、出逢って直ぐに恋に落ちました。
美嘉は何とも高貴な女性で、私は、彼女に降り注ぐ不幸から守ってあげたい気持ちで一杯でした。
美嘉は病名で言う所の鬱病の様で、腕には無数の傷痕が在り、それは彼女に不相応な醜い傷でした。
不眠症も伴っていた様なので、眠り薬を飲んで少しの睡眠を、やっとの思いで取れるくらいの辛い日々を送っていました。
私は、その病気の事を余り理解出来ず、時には喧嘩をする事も在りましたが、それでも、彼女とは幸せな時間を共有し、真に、それは幸福としか言えない素晴らしい日々でした。
私は、他人に変わり者と思われて居りました。
或る時期を境に、人との交流が億劫になり、何時しか一般常識では考えられない様な思考を抱く様になりました。
その上、短気で天邪鬼、神経質で、些細な事にも敏感に反応して仕舞う悪い癖が有りましたが、然し、美嘉はこの様な本質を持つ私でさえも、優しく抱き上げて下さったのです。
彼女の言う、『貴方は一見、冷たく恐い面も有って、とても近寄り難いけれど、優しく、そして愛に溢れた人よね。』との言葉が、私を酷く傷付け、又、私を救いました。
私は人を愛した記憶が御座いません。然し、その様な人生はもう、終りました。これからは美嘉が、私に取って一生涯愛する女性だと言う事が、彼女と付き合い始めて明白に成ったからです。
きっと、心から愛する女性に、私は未だ出逢えていなかった。只、それだけの事だったのでしょう。
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