劣等感

□不幸の上に咲いた七色の虹
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私は、元山と駅で待ち合わせをして、近くに在るカラオケ屋に入りました。美奈子は未だ来ていませんでしたが、私達は先にお店に入り、彼女の到着を待って居りました。
何曲か、元山の気持ちの悪い歌声を聴いて、私は既につまらなく為りましたが、やがて美奈子が現れ、写真程に悪い顔では無いな、と思いました。
そして元山は、一々私の癪に障る態度で、美奈子と親しげに話し出し、私は彼等の話に乗れず、その三人しか居ない空間で孤立しました。
長いカラオケの時間が終り、私達三人はばらばらに帰宅して、それからは、私はこの二人と連絡を取らない様にして、日が経ちました。
二ヶ月か三ヶ月か、それくらいが経って十月に成り、冬の気配に人々が胸を弾ませ、涼しさの様な寒さの様な風が街を覆い始めた頃、私は何と無く携帯電話の電話帳を見て、不必要な電話番号を削除し始めました。
私は几帳面でしたので、そう言う細かい所がどうしても気に為り、その様な地味な行動をして、そうしていると美奈子の連絡先を発見し、元気かな、と思い、電話を掛けました。
私からの電話を直ぐに取った美奈子は、実に弱々しい声で、私は、どうしたの?と聞きましたが、彼女は、ちょっとね…、と言葉を濁して、私は気を使って電話を切り、その後に、相談に乗るよ、と言う内容のメールを彼女に送りました。
その返信で、どうやら彼女は元山との一悶着の後、正式に付き合った彼氏が居た様でしたが、彼氏と別れて仕舞った様で、それで落ち込んでいた様なのです。
私は、それなら、一度逢おう、と言って、彼女の悲しみを拭ってあげようと思いました。然し、それは建前で、この女性なら簡単に自分の手中に落ちる様な気がして、どうせ女性と言う生物には愛情の一片も無い事を、身を以て経験した私は、そう言う残酷な感情が芽生え、翌日、私は美奈子と逢いました。
私はその頃、長い髪の毛を切り、すっきりしたヘアースタイルにしていて、美奈子と元山と、私の三人で逢った時よりはまだ見易い雰囲気に成って居りました。
美奈子は、わざわざ私の地元まで来てくれて、と言うのも、その別れた彼氏が私の自宅の近くに住んでいた様で、不様にもその男性に和解をお願いしに来たらしく、それでも結果的に、矢張り振られて仕舞った様で、彼女はその後に、私と逢ったのです。
私は昔からお金が無く、女性とは何時も公園等で会話をする事が殆どで、女性を何処に連れて行けば良いのか等、何一つ解らず、美奈子を駅ビルの裏に在る階段に座らせ、私はその隣に座りました。
つまらない彼女の相談に乗り、まぁ振られる理由は何と無く解るな、と思いましたが、道化師の様ににこにこ笑って、突然、あっ!と言って走り出し、近くのハンバーガー屋で安上がりなポテトだけを買い、それをむしゃむしゃと食べながら彼女の話を、聞いて居りました。いいえ、正確に言うと聞いている振りをしていたのです。
その付き合っていた彼氏の話が終り、私はポテトを一本だけ美奈子に差し出して、食べる?と聞きましたが、要らない、と彼女は微笑を含んで答え、あ、そう、と私は言い、又もポテトを食べ続けました。
会話が少しだけ止まったと思うと、彼女は可笑しな事を口にしました。
『前に元山さんと一緒に、貴方とも逢ったけれど、その時は貴方、髪の毛が長かったから余り好きなタイプでは無かったの。でも、髪を切って印象も変わって、今はとても素敵だね。』
ふざけた言葉だと思いました。良く恥ずかしげも無くそう言うお世辞を言えた物だな、と、私は内心、酷く苛立ちましたが、表情にはその苛立ちを出さない様にして、あ、どうもぉ、と言って、ひたすら笑顔を作りました。
私は美奈子に告白をしました。
彼女を好きでは無かったのですが、傷付けられるよりも傷付けた方が、何百倍も人生を楽しく過ごせるだろうと思い、こう言う行動に出ました。
美奈子は、うん…、それじゃぁ考えておくね、と言って、私は、満更でも無い癖にお高く止まりやがって、と、こう思いながら、その日は帰る事にして彼女と別れました。
美奈子はもう、私の掌の内で転がされているのでした。彼女は、自分を軽く見せない様に私の告白の返答を曖昧にして、そして、何れはどうせ、私と付き合う事に成るのです。
私は、その頃には人を一目見ただけで本質までをも見抜けられる様に成っていて、それはガソリンスタンドで接客をして、人の扱いに慣れた、と言うのが一つの理由だと思いますが、学生時代からの経験も、もう一つの理由の様に思われるのです。
特に、女性の心理の方が読みやすかったのですが、女性ばかりでは無く男性の心理も大抵は読めまして、私は今後、この能力を駆使して行こうと思いました。
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