劣等感

□奇妙な贈り物
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その贈り物には驚愕した。いや、驚愕どころか、寧ろ背筋が凍った。

私はホラー映画が大好きな、今年で三十歳に成る社会人である。仕事は営業を主にやって居り、これが実に下らない。笑顔を振り撒き、商品を買って頂く為にも、不様で在ろうが何だろうが、兎に角、お客様の機嫌を損ねぬ様、努めなくては為らない。相手が嫌な客であろうとも、ひたすら笑顔を作る様は、見事なまでに滑稽だ。

私は平凡な人生を送っている。幸福でも不幸でも無く、まぁ良くも悪くも無いと言う事か。
心理分析をしてみると、私がホラー映画を好む理由は、刺激の無い毎日から、ブラウン管の中に入り込み、私自身が主人公と成り冒険をしたい、と、この様な深層心理が窺えるのかも知れない。けれど、心理か。あの様な絶望的な物を、私は信じない。精神科に通えば誰だって心を病んだ人間に成れて仕舞うのだから、暇潰しに心理テストをするくらいの感覚が一番良いだろう。あの分野は信じれば信じる程、破滅の坩堝に陥る物で、最終的には薬漬けにされて廃人さ。

或る日曜日の事だった。会社が休みだったので気晴らしにドライブにでも行こうと思ったが生憎の雨に興醒めし、仕方無くホラー映画の鑑賞に励む事にした。家には山積みにされた大きめの段ボールが三つ程在り、その中にはホラー一色のビデオが詰め込まれている。私は几帳面であるから順番を決めていて、これは五十音にしている。一番上の段ボールには、ア行からサ行、真ん中の段ボールにタ行からハ行、そして一番下がマ行からワ行だ。マ行以降の表題のビデオを観ようと思う時は、段ボールを退かさないと行けない為に、私はうんざりする事も有るが、それでもどんどんとビデオを購入して、その都度整理整頓を繰り返し、まぁ大変なのだ。
この日はア行の表題のビデオを観た。何度観ても恐怖する物語や映像、効果音は素晴らしい。と、その時、部屋の呼び鈴が鳴り、私はそれに酷く驚愕し、思わず身体をビクッとさせた。何か物が送られて来た様だ。配達員の出す書類にサインを書き、小さな小箱を受け取った。

-何だ、これは…?-

差出人は不明。奇妙な予感。
箱を恐る恐る開け、私は固唾を飲んだ。
それは明らかに造り物では無い。本物だった。本物の、本物の人間の小指だった。
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