劣等感

□灰
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 自分は所詮、人殺しであります。未だに、あの場所から飛び降りた彼女の幻影に怯えるのです。
 部屋の窓から僅かに差し込む日差しを遮断する様に、カーテンを閉めました。薄暗い、そう、淡色の憂鬱。自分はアルコールを少量だけ飲み、嘔吐、吐血、苦笑。全く救われぬ醜態に御座います。
 戻る事が出来るのならば。戻る事が出来るのならば、振り向きましょう。日溜まりに目を細めましょう。然れども、この両手。血塗れのままの汚れた両手。卑怯者で臆病の自分は、敢えてやはり黒色の方角へ進むのです。
 無くした物。それは一体何でしょう。彼女か、自分自身か、それとも?
 黒色の背広に着替え、赤色の薔薇を一本、彼女の愛した、美しい薔薇を、マッチに灯された火で以て、燃やします。
 さようなら。
 さようなら?
 さようなら。
 血液の様に赤い色をした薔薇は、見る見る内に灰となりました。



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