劣等感

□病巣
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 彼は病んでいる。思えば、幼少の頃から病んでいた。
 あれは彼が六歳の時分であった。父母が外出していた時、彼は性的欲望を感じ、居間で一緒に本を読んでいた双子である妹の服を剥ぎ取った。そうして、未だ幼い童子の乳首にその指で触れ、また、その口で、それを含み嘗め回した。
 妹はしかし拒否をしなかった。彼を受け入れていた。その事件が、幼さの為に罪だと感じなかったからという訳ではない。彼女が兄を、愛していたからである。その愛は海よりも広くそうして深いものであり、また、宇宙の様に果てしなかった。
 その事件はただの前戯だけという形に終わる。幼少の彼等に、性交の仕方等判る訳が無かったからであった。
 彼は年齢を重ねる。
 十三歳になった。
 父母も妹も寝静まった筈の頃、父母の寝室から何やら物音が聞こえた。
 彼は、別段それを泥棒等と思った訳ではないが、ただ何とは無しにではあったが、その寝室の扉を小さく開けた。すると其処には、童子からすれば惨たらしい光景が広がっていた。
 父が母の上に乗り、下半身を律動的に動かしているのである。それは互いに裸であり、母は苦しそうな、しかし恍惚とした表情を湛え、艶かしい小さな声を上げていた。
 衝撃的であるそれを見、しかし彼は勃起していた。それは、仕方の無い、言わば男性の本能であった。けれども彼の場合、それだけでは済まなかった。その光景を観ながら、自身の硬く大きくなったそれを取り出して、自慰をした。右手で何度もそれを上下に振り、いよいよ快感の果てに達する際、勢い良く飛び出る白い、熱い液体を、彼はその左の掌に受け止めた。
 彼は暫しそれを見詰めていた。そうして、産まれて初めて、快感の果てを知った。彼の父母はそれに気が付かない。窓から差し込んでいる小さき街灯、それが彼の精液を遠くから照らし、彼は綺麗だと思った。
 彼は更に年齢を重ね、十七歳になった。双子の妹も、十七歳になった。
 妹の身体は見違える程に成長し、十七歳とは言え、其処にあどけなさの一片も無かった。しかもその上、美貌であり、恋人の居ないというのが不思議にさえ彼は感じた。
 或る晩の事である。それもやはり父母の居ない時であった。妹と談笑していた彼は、不意に、そうして自然に、彼女の身体を抱き締めた。無論、それは服の上からであったが、彼はその行動を取った後、自身でさえもはっとした。慌ててその手を離す。何故に抱き締めたのか、彼自身にも判らない。
 しかし彼女は嬉しかった。それはやはり彼女が幼少の頃のまま、兄を海よりも広くそうしてそれよりも深く、また、宇宙の様に果てしなく愛していたからであった。
 今度は妹が彼の胸に顔を埋め、その両手を彼の腰に回す。そうして一言、
「抱いて。」
 と言った。
 彼は戸惑った。罪の意識が、その時には頭の片隅にあったからである。しかし次第に彼の陰茎は膨れ、硬くなる。彼は堪らず、彼女の短いスカートの中に手を入れる。そうして、下着の上から優しく、彼女の陰核の辺りを触り出す。
 彼は童貞であった。彼女もまた、処女であった。しかしもう、昔の如き性交に関して無知である二人では無かった。彼は遂に下着の中に指を滑り込ませる。そうして最後まで、つまり彼が射精をするまで、事は終わらなかった。
 彼等はそれからも、何度も身体を重ね合った。
 妹は思う。その愛し合っている時だけは、兄妹であるという形が崩壊し、しかし其処に、男と女とであるという事を見出だした。この時だけ、妹は兄を、身体までをも愛する資格を有したと思った。
 事は彼女から誘う事も屡であった。彼等は何度も愛し合う。嗚呼、禁断の情事。禁断の物語。しかし止まらない。二人は何度でも愛し合う。

 やがてその終局は訪れる。気の遠くなる程の、余りにも凄惨なる現実に因りて…。


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