劣等感

□月
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 僕は孤独だ。家庭の中でも、会社の中でも、恋人と居た時も、友人と飲酒した時も、歌を唄う時も、小説を書く時も。
 僕はその寂しさから、家を出て、居酒屋へ行った。死ぬ程飲んだ。酔い潰れた。
「マスター。僕はね、孤独なんだ。職場で談笑しても、誰と愛し合っても、友人と笑い合っても、歌を唄っても、小説を書いても、孤独なんだ。皆、僕を判りはしない。判っている振りをしているだけなのさ。僕は孤独だ。死のう。死ぬしか無いんだ。」
 マスターは、
「僕は君の仲間さ。だって、君の事を好きだもの。」
 嘘吐きは、泥棒の始まりだぜ、マスター。僕は心の中でそう呟き、その店を出た。僕は路上に吐いた。そうして、ふらふらと帰路を行く。
 路上に、ちかちかと儚く点滅する街灯があった。今にも消え入りそうな灯火。僕は涙した。その光は、僕と同じ孤独を所有していた。
「君も、辛いのだね。お疲れ様。君は、必死にこの暗い道を照らしてくれた。有り難う。ぐっすり、眠るのだよ。」
 僕は更に泣いて、その泣いた分だけ更に帰路を行く。
 僕は孤独だ。あの街灯の様に。
 ふと、空を見上げた。其処には大きい月が、黄色を帯びて存在していた。
 僕は泣きながらしかし笑って、
「まだ、其処に居たのか。照らしてくれるのか、こんな僕を。」
 僕は暫しその輝きを見詰め、そうした後で、
「有り難う。でも、さようならをしなければならない。僕はこうして生きて来た。だからこれからもこうやって生きて行く。さようなら。今まで有り難う。」
 僕はきっとまだ生きる。しかしもう一秒後に、夜空を見上げる事は無いだろう。



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