劣等感

□彼女に別れを告げた夜
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 彼女に別れを告げた夜、それは木枯らしに胸を痛めた九月二十九日の事である。

 聖書には、「自分を愛するが如く、隣人を愛せ」という様な意味合いの文句がある。
 これを読んで僕は理解した。僕は、自分自身をさえ愛していないから、彼女を愛する事が出来なかった。

 嗚呼、無能なこの男を、彼女は責める。けれども、それで、良いのだと思う。彼女は何も、間違っていないのである。

 僕はこれから目を瞑り、そうして目を覚ました時、誰も僕を守ってくれない街に出る。
 僕は、駅のホームに佇む灰皿になる。沢山の人間に囲まれて、ただ煙草の灰を捨てられるだけの灰皿になる。

 彼女に別れを告げた夜、それはただ不安だけが胸を掻き毟った九月二十九日の事である。
 こうして書き終えた今に思う事も、やはり自分勝手な事ばかりである。「愛してあげられなくて、ごめんなさい。」



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