劣等感

□不幸の上に咲いた七色の虹
2ページ/30ページ

私は神経質だと、自分でも思って居りましたが、時折、無神経だと言われる事が多々有りました。
例えば、非常識なまでに答え難い質問を相手にしたり、人の気分が下がって居る時に馬鹿げた冗談を言い、迷惑を掛けたり致しましたので、躁鬱病の様な私の気まぐれに欝陶しさを感じる人が、それはもう沢山居たと思います。
然し、これはわざとそうしたまでだったのです。
人が悲しんでいる時に、哀れみを捧げたくは有りませんし、かと言って、人が楽しんでいる時に、同じ様な楽しみを共有している自分に、ふと興が醒めて仕舞うからでした。
或る日、美嘉は『何故、私と一緒に居る時に、過去に関係が有った女性の話をするの?』と、私に問い掛けました。
確かに、彼女に対して昔の恋人の話を何十回もした事が在ったのですが、然し、これは先程の様な、無神経が故の失言では有りませんでした。
何と言うか、自分の過去も醜さも、何もかもを彼女に晒し、そして、その私の全てを美嘉に愛して頂きたかっただけなのです。昔の恋人の話をされるのは誰でも嫌だとは存じて居りましたが、この癖は直りませんでした。
美嘉は、『過去の話を聞いていて、貴方が誰も愛していなかったなんて、全く感じない。寧ろ、優しく接してあげていたと言う感覚が伝わって来るわよ。』と言い、私はその彼女の言葉を、必死に否定致しました。そして、そう言う優しさに溢れた言葉を放たれる度に、私は少しづつ傷付いて行きました。
それでも、矢張り彼女と共有する時間は楽しい物でした。
私はこれまでに、この様な楽しい恋愛をした事は一度たりとも無く、これは紛れも無く人生を生きた中の初めての恋だと認識致しました。
彼女の不眠は、中々治る物では無く、それは常に心配をして居りましたが、どうやら雨の日は割と良く眠れるとの事でしたので、私は雨乞いを致しました。彼女に安眠が訪れるのなら、大嫌いな雨さえも許せるでしょう。願わくば優しき大雨よ、彼女の上に降らしたまえ。
私達は、少しづつ、愛を育んで行きました。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ